最近話題のPET検査では“糖”が重要!?


「がん大国」とも呼ばれる我が国においてがんは今後ますます重要な疾患となっていくことが予想されています。今や2人に1人は生涯何らかのがんを罹患し、3人に1人ががんで亡くなっているというのが現状です。それに伴い、外科的治療、抗がん剤治療、放射線治療の3大療法の他にも様々な治療法が登場してきて、がんは根治可能な病気にもなってきました。正しい治療を行うためには正しい診断が大切で、より精密な診断機器が登場するとともに、診断の精度も上がってきています。その診断法の中でも、特にPET検査が注目されてきています。実はこの検査においては糖が重要なキーワードになっているのを御存知でしょうか? 今回はPET検査について紹介したいと思います。

PET検査の原理と特徴とは??

PET検査は「Positron Emission Tomography」の略であり、日本語ではポジトロン放出断層撮影になります。ポジトロンは陽電子と呼ばれ、あの電気の基となる電子の電荷がプラスになっているものになります。これは放射線の一種で、このポジトロンを放出する放射性物質の中で比較的半減期が短いもの(18F、11Cなど)を生体内代謝に関わる物質にくっつけて、この複合体を生体に注入します。放射性物質からのポジトロン発生後に電子と衝突して消滅すると同時に、180度方向の2本のガンマ線(エックス線とほぼ同じもの)に変換されます。このガンマ線を検出器でひろうというメカニズムになります。2本のガンマ線を検出できた時にだけ正確なシグナルとして認知する仕組みなので、たとえば関係ないところから飛んできた別の1本のガンマ線をノイズとして省くことが可能になります。このことで比較的高感度を担保できるのです。つまり、がん細胞に優先して集まる分子に放射性物質を結合して体内に投与した後、2本のガンマ線をシグナルとして検出できたところにはがん細胞があることがわかります。放射性物質を体内に投与することを懸念する方もおりますが、半減期が短いもの極微量で使用することと、体の代謝系によって比較的スムーズに体外に排出されることもあり、被ばくという観点では心配はありません。

PET検査自体も進化している!!

PET検査は代謝検査にあたり、組織の境界線や組織の位置などの情報が得にくいので、近年ではCT検査と組み合わせたPET-CT検査を行うことのほうが多くなってきました。これにより、どこの組織のどの部分にがんがどのくらいあるのかを正確に見積もれるようになりました。1cm程度の小さな腫瘍でも診断が可能です。1度でほぼ全身を撮影するので予想していなかった場所にあるがんも発見できます。腫瘍の良性・悪性の判定や進行度の予測も可能となり、痛みや不快感が少なく副作用もほとんどありません。

PET医薬品には“糖”が応用されている!!

PET検査に使用される様々な医薬品が開発されてきていますが、その中でも最もポピュラーなのが18F-FDG製剤(以下、FDG)になります。FDGは正確には、「2-デオキシ-2[18F]-フルオロ-D-グルコース」で、糖の代表格ブドウ糖(グルコース)の一部を変化させた「2-デオキシ-グルコース」に、フッ素(F)をつけたものになります。このフッ素(F)にはいくつか種類が存在しますが、PET医薬品の時には放射性である18Fを結合させます。まさしく糖を変化させた物質が大活躍しているのです。何故糖なのかという疑問がわきますよね。これはがん細胞のある特徴を理解することで納得できます。我々の細胞が日々活動するために、糖利用しているのは周知の事実ですが、その中でも比較的すぐにエネルギーに変えることができるブドウ糖は脳を含めてあらゆる臓器の細胞で利用されています。がん細胞は通常細胞よりも増殖や代謝といった活動が活発なため、通常細胞よりも3~8倍のブドウ糖を取り込んでいるのです。つまり、FDGのようにブドウ糖に似た物質を用意するとがん細胞に取り込まれがん細胞を発見することができると考えられます。ブドウ糖は代謝が早いので比較的素早く分解されますが、前述したようにブドウ糖の一部の構造を変化させたFDGは分解速度が遅いため、がん細胞に取り込まれた後もがん細胞内で集積されやすく、結果として容易にがんを発見できようになります。(※糖を必要としないがん細胞もあります。)

FDG-PET検査での注意点や限界とは??


以前よりPET検査は別名「金持ち検査」と呼ばれ、比較的高額な検査料が必要になるものでしたが、FDGが保険適応された(一部非適用のものもあります)ことで急速に広まってきました。加えて、元来PET医薬品はどれも半減期が短いため、病院内の専用の設備で作らなければならなく、大がかりな場所と費用をかけなければいけなかったのですが、このFDGに関しては、これを作って販売してくれる企業もあり、PET撮影装置さえあれば事足りるようになってきました。これらの背景から、数あるPET検査の中でもFDG-PET検査は多くの病院で行える検査に変わっていきました。ただ、FDG-PET検査では注意すべき点や限界も多く存在することもまた事実です。検査前に食事やジュースなどで糖分を多く取ってしまうと、がん細胞はブドウ糖を多く食べている状態になっているので肝心のFDGの取り込みが少なくなり、検出感度が大幅に落ちるため、PET検査の前は絶食が必要になります。また、炎症などのがん以外の組織でもFDG取り込みは活発になっているので、例えば炎症性変化なのかがんなのかを区別することは困難なことに加えて、細胞密度が低くFDGの集積密度も低くなりがちな一部の胃がんなどでは不適となっています(ただし、転移や再発の診断には有効な場合もありますので、医師の判断が必要になります)。脳腫瘍に関しては、普段から脳自体がブドウ糖の取り込みが激しいので向いていません。さらに、おしゃべりしたり、読書したり、激しい運動したりすると筋肉でブドウ糖を消費することになりますが、FDGも積極的に取り込まれてしまって正確な診断ができません。もちろん、血糖値が普段から高い方や糖尿病を罹患している方など、糖代謝が変化している方でも注意が必要になってきます。いずれにしろ、正確な診断結果を出すためには、事前の医師の説明を十分に理解することが必要になってきます。近年ではFDGに変わる医薬品(脳腫瘍にも適応できるアミノ酸を用いた11C-メチオニン等)も以前よりは使用しやすくなってきているので、この動向もチェックしておきましょう。
是非覚えておいてください。


【ライター紹介】


宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。

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