糖と健康

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新型コロナウイルス感染症と糖との関連とは??

昨今新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)が世界的に蔓延し、未曾有の危機になっています。もちろん、ウイルスによる感染症と言えば、インフルエンザなど他にもたくさん存在し、毎年何かしら問題となる厄介なものです。実は糖とウイルス感染症という切り口で見ると色々と理解できることも多いのです。今回はこういった観点で色々と紹介したいと思います。

ウイルス感染症の特徴とは??


ウイルス感染症は微生物感染症の一種で、ウイルス以外にも原因微生物としては色々と存在します。大腸菌などの細菌が最も代表的ですが、他にも多岐に渡ります。大きさとしては、細菌が1μmで、ウイルスがその0.1μmくらいになります。肉眼でも確認できるアマガエルの卵は1mmくらいですので、細菌はその1000分の1で、そのさらに10分の1がウイルスになります。アマガエルの卵もかなり小さいと感じるので、かなり小さいことがわかります。一般的な光学顕微鏡で見ることができるのは細菌くらいまでの大きさで、ウイルスを見ようとしたらもっと高精度な顕微鏡が必要になってきます。また、細菌は栄養さえ用意してやれば単独で増殖できるのに対し、ウイルスは生きている細胞に入り込みその助けを借りないと増殖することができないという特徴があります。それ故に、ウイルスを生命体と定義することに対しては長年議論が繰り返されています。

ウイルスはどうやって細胞へと侵入する??

ウイルスは主に宿主側の細胞の表面にあるタンパク質因子(受容体)にウイルス自体のタンパク質を結合させることで細胞内に侵入してきます。この結合を完成させる際の第一ステップとして、以前のコラムで紹介した糖鎖が関係してくるのです。ウイルスが結合する先を探す際の目印として糖鎖をターゲットにするのです。糖鎖を見つけ出し、ウイルス自身の手をそこに絡め、それに続いて相互のタンパク質同士を結合させるという流れです(ただし、詳細はまだわかっていません)。そして、この結合を考える時には、よく鍵と鍵穴に例えられます。ウイルス側の鍵と人間側の鍵穴がきちんと適合しない場合には細胞内へと入ってくることはありません。例えば、ネコに感染するあるウイルスが人間には感染することがないのは、ネコと人間では細胞表面の鍵穴の形が違うため、ネコの鍵穴に合う鍵を持ったウイルスは違う形をした人間の鍵穴には結合できないからです。ところが、ネコにしか感染しなかったはずのウイルスが人間に感染するようになることがあります。これがいわゆるウイルスの変異です。

これまでのコロナウイルスの歴史とは??※1

詳細は省きますが、コロナウイルスといっても色々な種類が存在します。21世紀に入るまでは、コロナウイルスはただの風邪の原因ウイルスとして認識されていました。参考までにですが、風邪の原因の10%~15%を占めると言われています。2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)のパンデミックが起こった際に、原因としてコロナウイルスが同定されてから、致死性のコロナウイルスが出現したと認識されるようになりました。その後、2012年に、中東地区を中心として、中東呼吸器症候群(MERS)が発生しました。SARSほど目立たなかったのは割と限定的に広がったからです。しかしほぼ終息したと言えるSARSと比べて、MERSは現在もまだ発生中であることに加えて、致死率という点ではMERSが一番高いので、こういう点では注意が必要です。そして2019年から感染拡大し始めた今回のCOVID-19はこれまで以上に世界の広い地域に感染が拡大しています。よく間違えられるのですが、COVID-19は感染症名であって、その原因ウイルスの名前はSARS-CoV-2と呼ばれるウイルスです。SARSとついていることからわかるように、過去のSARSコロナウイルス系統となります。

糖が肺炎患者を救う??


COVID-19の症状として代表的なのは肺炎です。新型肺炎という名前もついているくらいメインの症状であり、人工呼吸器をつけている患者さんの姿がメディアでも毎日のように取り上げられているので皆さんもご存知のことと思います。近年の日本では糖質制限が流行となっており、健康に良いという認識があります。これは確かに健康な方ならば一定の効果があるというのは事実です。また減量としても有効でメタボリックシンドローム防止へとつながることにもなります。しかし、肺炎の患者さんの場合には逆効果という報告がだされています(もちろん、全ての肺炎患者に当てはまる訳ではないことを理解しておいてください)。この情報をまとめている女子栄養大学栄養科学研究所の報告(https://www.eiyo.ac.jp/ions/?p=3674)によると、肺炎患者では、低血糖により、死亡率が約3倍以上にまで上がってしまうということです。加えて、やせた肺炎患者の方が肥満の患者よりも死亡率がおよそ倍になるということも指摘されています。肺炎患者や肺炎患者予備軍などの方々には糖を積極的に投与することにより死亡率を下げることができるという期待から、国にも提言しているようです。

糖がウイルスを殺す薬になる??


スイスとイギリスの研究チームが糖の一種であるシクロデキストリンの分子構造を改良することで、ウイルスを殺せる薬剤を開発したとの報告がなされました。※2 現段階では今回のSARS-Cov-2にも効果があるかははっきりとはしていないようですが、期待がもてるであろうということです。メカニズムとしては、この薬剤自体がウイルスと接触して、ウイルスの外層を破壊するというものです。しかもどのウイルスにも使えるとのことです。基になっているシクロデキストリン自体、食品にも使われている成分ですし、これまでの抗ウイルス薬のようにウイルス毎に違うものを用意する必要もないということなら、かなり素晴らしい成果だと思います。もしかしたら、糖が人類を救ってくれるかもしれません。早く実用化して欲しいですよね。是非覚えておいてください。


<参考>
※1 北里大学 動物とヒトのコロナウイルス -2019新型コロナウイルスの流行を受けて-
https://www.kitasato-u.ac.jp/vmas/download/coronavirus_200220lecture.pdf

※2 Science Advances 
RESEARCH ARTICLE Modified cyclodextrins as broad-spectrum antivirals
https://advances.sciencemag.org/content/advances/6/5/eaax9318.full.pdf
 

【ライター紹介】


宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。