糖と健康

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味覚と糖との関係は意外と奥が深い!!


新型コロナウイルス感染症の拡大のため、ずっと外出などを自粛しているという方も多いでしょう。そんな時こそ美味しいものを食べて気分転換したいものです。美味しいものを食べた後は幸せな気分になります。我々は味覚を持ち、色々な味を感じることができます。味覚は昔から知られてはいましたが、実はここ最近になって色々と新しいことがわかってきたのです。今回は味覚に関して、糖を切り口にしてまとめたいと思います。

味覚の種類と仕組みとは??

味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の基本5味があります。勘違いしている方が多いですが、辛味は実は味覚ではなく、痛みに入ります。日頃食べている食事はこれらの味が複数組合わさることで様々な美味を作り出しています。
味覚を感じるメカニズムですが、舌の表面に多数ある味蕾と呼ばれる組織内の味細胞が味覚の成分を感知した後、その情報が神経を介して脳に伝わるという流れになります。この過程のどこかがおかしくなることで、いわゆる味覚障害になります。
症状としては、味の感じ方が弱くなる、味を全く感じなくなる、本来の味とは違う味に感じる、何も食べていないのに味を感じるなど多岐に渡ります。
味覚障害の原因としては亜鉛不足が有名ですが、他にも、ストレス、加齢、口の乾き、神経疾患などこれも多岐に渡っています。メカニズムとしては詳しくはわかっていないのですが、亜鉛不足による味覚異常に関してはある程度わかってきています。それによると、亜鉛は味細胞の新陳代謝には必須ですが、不足するとこの新陳代謝が抑制されることで古い味細胞が残ってしまって結果として味を感じる能力が低下してしまうからだそうです。
今回の新型コロナウイルス感染症でも味覚障害が起こることが指摘されていますが、まだ仕組みはわかっていません。いずれにしろ、味覚を感じなくなるということはとても残念な気持ちになることは否定できないでしょう。

舌の味覚地図の今は??

以前は舌にはそれぞれの味を感じる場所があり、それを味覚地図と言っていました。近年それは間違いであったと否定されました。
舌のどの部分でもすべての味を感じることができます。ただ、強弱はあり、舌先が一番高感度です。我々は甘いものを舌先で味わい、苦いものは口の奥に運びすぐに喉へと流し込もうという習性がありますので、昔の人が舌先は甘味、奥が苦味を感じる部分に違いないと誤解したのかもしれません。加えて、味覚地図は否定されたものの、神経伝達という観点からは実は舌の場所と味覚によって違いがあり、舌の奥のほうにつながっている舌咽神経は苦み物質に対して特に感受性が高いことがわかっています。舌の奥のほうが苦味を感じやすいということになります。

味覚の感受性は違っている??

味覚の一番基本となるものはエネルギーシグナルを表す糖の味である甘味です。人は甘味を一番感じやすいのではないかと思いがちですが、実は違います。
味を感じる感度は苦味→酸味→うま味→塩味→甘味の順に弱くなります(※うま味に関しては諸説あり、今回は除外しました)。口から色々なものを取り入れるようになってから、必要なものと毒を見分ける必要が出てきたため、味覚が発達してきたと言われています。生命の危機に直結する味ほど感じやすくなっているのです。
苦味は毒の、酸味は腐ったもののそれぞれ味を意味してきたので、これらを、ミネラルシグナルの塩やエネルギーシグナルの糖よりも優先して感じるようにできているという訳です。経験されている方も多いとは思いますが、苦いものと糖、酸っぱいものと糖を同時に取った時に、はじめに苦さと酸っぱさを感じるのも本来の味覚の感度の違いから来ているものと思います。

甘みを活かす??

甘味である糖はエネルギー源なので大事です。
昔、糖は高級品でしたので、いかに他のものから糖分を摂取するかが大事な問題でした。日本に昔から存在する味噌やしょうゆなどの発酵食品は、発酵中にでんぷんが酵素によって分解されオリゴ糖やブドウ糖に変わるので甘さを持った貴重な甘味食品でもあったのです。
飽食の現代では逆に取りすぎるという心配が出てきました。
そこで考えだされたのが人工甘味料です。味細胞の表面には甘味受容サイトが存在しています。そこにはまる形であれば糖でなくても脳が甘いと感じるようになります。詳細は難しいので省きますが、甘味受容サイトのとある3ヶ所が甘味物質との結合で大事になる部分になります。そのうちの1ヶ所部分に甘味物質との疎水結合が存在すると甘味が増強することもわかっています。つまり、この疎水結合を強くしてやることで甘味の強さを変えることができるのです。これにより本来の糖よりも甘いものまで登場してきています。
いわゆる普通の砂糖であるショ糖の甘みを1としたとき、アスパルテームで200、スクラロースで600など色々なものがあり、これによりさらに食品が多様化するようになりました。

古来の理論でも甘味が中心??

漢方医学などにも採用されている陰陽五行説でも五味が登場していて、酸味、苦味、甘味、辛味、鹹(しおから)味になります。
甘味は土と対応していて、五味の中央に配置されています。胃、膵臓、脾臓と関連し、思慮の感情に関係します。中央に位置していることからも、昔から糖の甘味がすべての味の基本とされていたことがわかります。
甘味は脾臓と消化器系を養うので、不安になって消化器系が病みやすい方は甘いものでリフレッシュすると良いということです。逆に取りすぎると、逆に脾を損ない糖尿病などの代謝系の疾患になりやすいということも言えます。西洋医学でも甘味はストレスを軽減することがわかっていますので適量を上手に取ると良さそうです。
味覚の基本である甘味をうまく利用してストレス社会を乗り切りましょう。

【ライター紹介】


宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。