糖と健康

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生命にとって重要と言われている糖鎖とは?!


皆さんは糖鎖って知っていますか?一般の方々には聞きなれないものだと思います。ヒトゲノム解読が完了し、核酸やタンパク質の構造が明らかになり、それらの機能を研究していく中で、糖鎖の重要性が見出されるようになり、「第3の鎖」として注目を集めています。文字通り「糖の鎖」で糖によって構成されていますが、実はこれが生体にとってかなり重要な役割を担っているのです。今回はこれを紹介します。

糖鎖を形成する糖の種類とは??

糖鎖を形成する糖と言っても色々な種類があります。これは一般的によく聞く糖の種類に準拠します。具体的には、グルコース、ガラクトース、キシロース、マンノース、リボース、フコースの他、グルクロン酸、イズロン酸、シアル酸、ガラクトサミン、グルコサミンなども含まれます。これらがいくつか組み合わさることで糖鎖を形成しています。結合の仕方や位置も多岐に渡るため、糖鎖はかなりバラエティに富んだ構造になっています。

糖鎖はあらゆる生物で存在する!!

糖鎖は糖鎖単独で存在している(遊離糖鎖)他、タンパク質に結合した糖タンパク質、脂質に結合した糖脂質の形でも多く存在しています。我々人はもちろんですが、色々な生物種に存在しています。具体的には、細菌などの原核生物から、植物、節足動物、魚類、爬虫類とあらゆる生物にあります。例えば、昆虫は外皮に多糖成分が含まれ、強固な構造を形成する役割を果たしています。また、原核生物であるグラム陰性菌は細胞外膜に多糖成分を持ち、外膜維持だけでなく、免疫監視をすり抜けるための役割を担っています。ちなみに、糖鎖の構造や種類は生物間で微妙に違っているため、例えば人の糖鎖の研究を行う際には別の生物種を使うと、その生物種でわかったことが人では当てはまらないことも少なくないです。加えて。人のあるタンパク質の研究を同様に他の生物種で行う際にも、糖鎖の結合様式や構造が違うため、そのタンパク質の機能が違ってくることがあるので注意が必要になってきます。この点でも糖鎖の正しい理解はあらゆる生物研究を行う際には絶対に避けては通れないと言えます。また、細胞が老化してくると細胞表面の糖鎖の糖の種類が変化することもわかってきています。ただし、糖鎖自体の意義や詳細な役割はまだ未解明な部分が多いので、まだまだ色々なことが解明されてくる可能性が非常に高いとも言えますので楽しみです。

糖鎖の役割は多岐に渡る?!


詳細なことはわかりませんが、どういった現象に関わるかは大まかにはわかってきています。しかも、糖鎖が1つでも違うだけで機能が変わってくるということもわかってきています。もちろん、糖鎖は生体内の色々な場所に存在しているため、その関わりはおのずと幅広いものになります。タンパク質に糖鎖が結合すると前述しましたが、これはタンパク質を各種ストレスから保護する鎧のような役割を行うためと、その逆に傷ついたタンパク質を認識して分解するための目印となるためです。この機構が働かないとタンパク質がうまく機能せず、結果として酵素反応などに影響するため、かなり重要な機構です。また、細菌やウイルスが感染する際には細胞表面の糖鎖を認識して細胞内に侵入します。感染症にかかりにくい人もいますが、この糖鎖の違いが感染症にかかりやすいか否かを決めているとも考えられます。そしてあの血液型のABOの違いも糖鎖構造の違いに起因するものなのです。血液型の違いと性格とは関係ないと言われていますが、糖鎖の違いか起因し、かつ糖鎖が1つでも違うだけで細胞機能が変わることを考慮すると、もしかしたら、性格の違いと血液型とは関連することもあるのかもしれませんね。

糖鎖を応用するという発想も?!


前述したように様々な生理機能に糖鎖が関わっているため、糖鎖を応用しようという動きもあります。薬は体に入ると各々目的の臓器へと運ばれていき、そこで適切な薬効を発揮します。糖鎖は組織によって違っているという特徴を利用して薬を適切に運搬する技術の開発がなされています。また、薬が効くか効かないかの活性コントロールも糖鎖を利用して調整することが可能なこともわかっています。例えば、貧血治療薬の1つエリスロポエチンは糖鎖が結合しないと効果を発揮しません。この研究が進めば、他の薬に関しても糖鎖によって薬効の調整ができるようになるでしょう。感染症にも糖鎖が関わっていて、ウイルスは糖鎖を介して感染すると説明しましたが、昨今話題になっている新型コロナウイルスや毎年流行するインフルエンザでも当てはまります。インフルエンザウイルスを例にとって説明すると、インフルエンザウイルスは細胞外へと移行する際にシアリダーゼという酵素により糖鎖を切って外へでますが、これを阻害する薬が実際に抗インフルエンザ薬として使われています。今ある薬に対する耐性菌や耐性ウイルスの出現が最近懸念されている昨今、いずれは感染症で人類は絶滅するのではとも言われています。しかしながら、糖鎖の研究が進めば、いずれはあらゆる感染症発症を抑える特効薬がたくさん生まれてくるかもしれませんね。
栄養というより、もっと根本的な部分で糖が生命を維持しているんですね。是非この機会に糖の別な側面を見直してみてください。

【ライター紹介】


宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。