糖と健康

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糖尿病の有効な予防と治療とは?!

前回のコラムでは糖尿病について紹介しました。今回はその続きとして、予防法や治療法について見てみましょう。今回も特に生活習慣によって発症する、かつ、圧倒的に患者数が多い2型糖尿病に特に焦点を当てます。

血糖値が上がることが悪い訳ではない!!

 

血糖値が上がること自体はそのまますぐに悪い訳ではありません。そもそも血糖値は上がるように出来ていて、血糖値を上げないと糖が正しくエネルギーになりません。血糖値はインスリンの働きでいずれは元に戻ります。
まだはっきりとわかってはいませんが、血糖値上昇が速いなどの高血糖状態に加えて高血圧や高コレステロールなどの因子が複合的に組み合わさることによって、本来血糖値を下げるはずのインスリンの働きが不全になる「インスリン抵抗性」が形成されてしまい、高血糖状態が維持されてしまいます。高血糖状態が続くと、活性酸素が発生し、その活性酸素によって血管壁が傷ついてしまいます。さらに酷い時には活性酸素が全身に行き渡り、合併症発症へとつながる可能性があります。
予防としては、先に食物繊維を食べ、その後タンパク質を取り、糖質を最後に食べるという順番を採用することで血糖値をゆっくりと上げたり、バランスよく食べたり、食べ過ぎないことでインスリン抵抗性の形成につながる他の生活習慣病にならないようにも気をつけることが大事です。昔からゆっくり味わって食べて、かつ腹八分で済ますのが良いと言われていますが、この知恵は間違っていないのです。

糖尿病の治療法の基本とは?!

 

糖尿病に一度罹患した場合には現時点では明確な根治療法がないので一生涯つきあっていくことになります。治療の目的としては、血糖を上手にコントロールすることで、糖尿病ではない方と同じ健康寿命を保つことになります(ちなみに、健康寿命とは、いわゆる普通の寿命とは違い、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことを言います。)。
糖尿病と診断されても、初期ならまずは食事療法と運動療法が大事になります。食事は予防と同様、バランスを意識し、かつ食事量に気をつけること、そして、1日3回規則正しく食事をすることが大事です。1日2回にするとか、また時間が不規則になると、身体が一気に栄養分を吸収しようとして結果として高血糖につながりやすいので注意が必要です。
また、運動としては徒歩やジョギングなどの有酸素運動がおすすめです。糖がエネルギーとして使われることに加え、筋肉量が増えることで、さらに糖を利用しやすい身体を作る、かつ、相対的に脂肪が減るのでインスリン抵抗性対策としても有用です。

薬物療法は多種多様?!

 

食事療法と運動療法では対処できない場合には薬物療法開始になります。現在、薬物療法で使用される薬は多種多様で、いくつかを組み合わせて治療する場合もあります。それにより、血糖値の管理がしやすくなっています。ただ、ここで大事なのは、薬物療法をしているからといって、食事と運動を疎かにしていいという訳ではないということです。食事と運動も意識することが大事です。
薬物療法として、一番基本的なのは、インスリンを外部から補う注射薬です。よくテレビなどで糖尿病の方がお腹に直接ペン型の何かを差し込んでいるのを目にしますが、まさにこれです。糖尿病治療といえばこのイメージが強いと思います。その種類としては、超速攻型、速攻型、中間型、混合型、持続型の5種類が用意されていて、個別の状態により使い分けます。ただ、インスリン自体が不足している1型糖尿病とは異なり、インスリン抵抗性が形成されてインスリンの効き自体が悪い状態になっている2型糖尿病の場合にはこれだけでは不十分となることが多いので、他の医薬品と併用することが大半です。
インスリン以外の薬としては、
①すい臓からのインスリン分泌を促進させる薬、
②インスリン抵抗性を改善する薬、
③糖の吸収を穏やかにすることで食後の高血糖を改善する薬、
④腎臓から尿へ糖を排出させる薬
の4つになります。

①としては、SU薬、速攻型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の4種類があります。そのうち、最後のGLP-1受容体作動薬は比較的新しいもので、近年処方が増えているものです。
②としては、BG薬、インスリン抵抗性改善薬の2種類です。
③としては、αグルコシダーゼ阻害薬があります。
④としては、SGLT2阻害薬があります。これも比較的新しい薬です。
多くの糖尿病の薬がインスリンを介する一方、③、④に関してはインスリンを介さない薬になります。③は炭水化物をブドウ糖に分解するのを遅らせることで血糖値上昇を抑えるもの、④は尿中へ糖を出してしまって血糖値上昇を抑えるものです。特に④に関しては逆転の発想を利用したものです。元来、尿中の糖は血糖値の指標になるもので検査にも使われます。この糖尿病の名前の由来にもなった尿中へ糖が出るという現象を促進させて積極的に尿中へ糖を出してしまおうというものです。
薬物療法に関して注意すべき点は、どの薬も多かれ少なかれ血糖値が下がりすぎることで低血糖状態になってしまうことがあるので、薬物治療を受けている方はブドウ糖を常備する必要があることです。特にいくつかを併用している方はそのリスクが高くなるので要注意になります。いずれにしろ、日頃から血糖値コントロールを意識しつつ、生活習慣自体の見直しが重要であることがわかります。是非日頃から心がけてください。

【ライター紹介】


宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。