ワトソンとクリックによってDNAの二重螺旋構造の解明以降、急速に解明されて来たゲノム。ヒトゲノムも全部解読され、すでに医学でもその知見を利用した治療法が使われるようになってきています。
実はゲノムと糖は切っても切れない関係にあるのをご存知でしょうか。今回はこれを紹介したいと思います。
そもそもゲノムって何??
ゲノムは言わば我々の身体の設計図に当たります。この設計図の本体部分となるのがDNA、そしてそこに存在している遺伝子です。
DNAはとても長いのでタンパク質に巻き付く形で染色体に収納されています。要するに、染色体という箱にDNAが収納されていて、このDNAの中に遺伝子が存在しているということです。つまり染色体の我々人の場合にはこの染色体を46個持っています。最後の45個目と46個目の2つが男女で違っていて、男性ではXY、女性ではXXになります。この最後の2本は特別に性染色体と呼ばれています。
お察しの通り、Y染色体には男性らしさを決める色々な因子に関する設計図が存在しています。46個の染色体のセットが人の設計図のフルセットとなり、このフルセットのことをヒトゲノムと言います。
ヒトゲノムが完全に解読されたということは、つまるところ、人の身体の設計図を全部把握したということです。設計図を見ればその人の身体のどこに異変があるか、また異変が出やすいかがはっきりと分かるので因果関係のある治療が出来ることにつながります。
どうやって身体を作るのか??
DNAからまずはRNAというDNAの情報をコピーした別の物質が作られます。その後、RNAからタンパク質が作られて、このタンパク質がまさに我々の身体を構成する物質になります。
現に、筋肉や臓器はもちろん、骨(実は大部分がタンパク質)、髪の毛、つめなど実際に全身タンパク質で出来ています。表には現れてはきませんが、代謝を行うための酵素類もタンパク質であり、さらに、ホルモンや神経伝達物質の大部分もタンパク質を基に作られます。
DNAは要するにタンパク質を作るための設計図ということになります。何故一度RNAを介するのかというとかなり重要な意味があるからと言えます。もし設計図が間違っている場合、もしくは設計図は合っていてもミスをおかしておかしいRNAを作ってしまった場合、そのままにしてしまうと、結果として間違った変なタンパク質が出来てしまいます。
そうならないようにRNAを介することで、この段階で品質チェックが出来て、異常な場合にはここで分解してしまえば、異常なタンパク質が作り出されることを回避できます。ただ何かしらの原因でこの機構がおかしくなると変なタンパク質ができてしまい、身体に異変が出てきたりしてしまうという訳です。
設計図は微妙に違っている??
目の形や耳の形など人はみんな違っていることを考えてみてください。ということは、設計図がみんな違うのかという疑問が出てきます。
実は設計図といっても微妙に違っているのです。ただ、微妙に違っているといってもコアとなる設計図部分は同じなので、目の形が違うとしても目が3つある4つあるなどはないということになります。
家の設計図に例えると、窓が2つある家の設計図が別に2個あるとします。2個の設計図ともに窓の数は変わらないのですが、その窓の形が一方は丸いのに対して、もう一方は四角形であるといった感じです。このように設計図が違うと少し違ったタンパク質が出来て、これが積み重なって結果としての個性が出てきます。
逆に言うと、設計図の違いにより個人を識別できるため、ゲノムは「最大の個人情報」と呼ばれています。
ゲノムの主要因子はRNAの場合もある??
通常、前述したようにゲノムの主要因子はDNAですが、実は例外もあります。それが一部のウイルスです。
今年パンデミックを起こしている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も実はゲノムとしてDNAではなくRNAを持っています。ウイルスを生物とするかに関しては未だに議論があり、また、ウイルスがどのように生まれてきたのかに関してもはっきりとわかっていない部分がありますが、いずれにしろ人から比べるとかなり下等なものとなります。
地球上でウイルスが先に作られ、そこから進化していって微生物→高等生物になってきたという説もあり、DNAよりもRNAが先に生まれ、RNAの不安定な特徴から、安定なDNAにゲノムが置き換わってきたという考えも浸透してきました。昔はRNA→タンパク質だったのが、より安定して長くゲノムを維持するべくDNA→RNA→タンパク質になったのではないかという仮説で、これを「RNAワールド仮説」と言います。
ゲノムは糖である?!
いずれにしろゲノムと言えばDNAかRNAのどちらかになります。
日本語に直すとDNAは「デオキシリボ核酸」、RNAは「リボ核酸」となります。RNAから酸素が取れたものがDNAになります。どちらにも「リボ」が入っていますが、これは「リボース」を表しています。
このリボースは実は糖の一種です。グルコースの兄弟になります。DNAはデオキシリボースが、RNAはリボースが骨格となります。つまり、我々の設計図である重要なゲノムは糖から構成されていることになります。
糖は栄養分としても大事ですが、実は生命自体を成立するという最も根本的な部分でも関わっているのです。まさしく生命体と糖は切っても切れない運命共同体と言えますね。
是非糖のこういった部分を理解しておいてください。
【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門 助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。