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春に食べたくなる水ようかん。サクラと一緒に満喫したい

ツルンとして涼しげな水ようかんは、夏に食べるイメージが強いお菓子です。しかし、春の花である桜との関わりがあるお菓子でもあります。桜は見て楽しむだけでなく、生の葉を飾りにしたり、花や葉を塩漬けにしたりするなど、お菓子や料理の材料にもよく使われています。そこで、水ようかんと桜との関わりや、春に食べたくなる水ようかんのレシピをご紹介します。

水ようかんと桜との関わり

皆さんは水ようかんというと、どんな形のものを思い浮かべますか?
プラスチックや缶、竹筒などの容器に入ったもののほか、切り分けられて植物の葉や、葉に見立てたビニールに包まれているものが頭の中に浮かんだ人も多いのではないでしょうか。

この水ようかんに使われている葉の多くは、桜です。桜もちのように塩漬けの葉を使うだけでなく、桜の青葉を使うこともあります。和菓子店によっては、桜の青葉が手に入る時期から水ようかんを作り始め、無くなったら販売を終了するお店もあるほどです。

脚本家であり作家でもある向田邦子氏は、自らを“水羊羹評論家と呼ぶほうがふさわしいのではないか”と言うほど、水ようかんの味や食べ方にこだわりを持っていました。1979年に出版されたエッセー「眠る盃」には「水羊羹」の章があり、この中で向田氏は水ようかんを包む桜の葉の役割について下記のように述べています。※1

“水羊羹は、桜の座ぶとんを敷いていますが、うす緑とうす墨色の取り合わせや、ほのかにうつる桜の匂いなどの効用のほかに、水羊羹を器に移すときのことも考えられているのです。つまり、下の桜のおザブを引っぱって移動させれば、水羊羹が崩れなくてもすむという、昔ながらの「おもんぱかり」があるのです。”(向田邦子著「眠る盃」より引用)※1

一枚の桜の葉からそのような情緒を感じているところに、向田氏の水ようかんへの強い想いが感じられます。このことからも、水ようかんは桜の葉の彩りや香りを感じながら、器に移動させる時の所作も含めて、趣が感じられるお菓子と言えるのではないでしょうか。

水ようかんとようかんの違い

ようかんの種類のひとつである水ようかん。一般的にようかんと呼ばれている和菓子は、「練りようかん」に分類されます。練りようかんが餡と寒天を使い、煮詰めて練り固めているのに対し、水ようかんは煮詰めずに固めて作られるため、練りようかんより水分が多くて柔らかく、弾力があるのが特徴です。

また練りようかんは砂糖の量が多く、よく練り上げてあるので保存に適しています。しかし、水ようかんは練りようかんに比べると使用する寒天や砂糖の量が少なく、水分が多いため日持ちはしません。しかし容器に入った水ようかんは、お店によって違いはあるものの、1カ月以上日持ちするものもあります。これは、密封した後に殺菌しているためです。

水ようかんを食べる季節はいつ?

みずみずしい水ようかんは、冷やして食べると喉ごしが良く、気温が高い日に食べたくなりますよね。一般的に夏のイメージが強い水ようかんですが、その一方で、冬の風物詩として親しまれているのが福井県です。

なぜ、福井県では水ようかんを冬に食べるようになったのでしょうか。この理由については諸説ありますが、江戸時代に盛んだった丁稚奉公が関わっているといわれています。奉公で福井から京都に来ている子ども達が、正月の帰省で持ち帰った手土産から水ようかんを作ったことがきっかけとなって広がったようです。そのため、福井で食べられている水ようかんを、別名「丁稚ようかん」と呼びます。

福井の水ようかんは平箱一面に入っており、これを切れ目に沿って竹製のヘラですくって食べるのが一般的です。また保存が効かないことから、雪の降り積もる冬の時期に食べられるようになったとも考えられています。

春に食べたくなる“ピンク色の水ようかん”のレシピを紹介

春になると、桜あんを使った水ようかんがお店に出るようになります。桜あんは、白あんに塩漬けした桜の葉を入れて色を付けたもので、桜の独特な香りとほんのり塩気のある味わいを楽しめる、春に最適な一品です。ぜひ自宅でも、ピンク色の美しい水ようかんを作ってみませんか。

【材料】(直径7cm×高さ4cm ココット皿6個分)
・桜あん…250g
・砂糖…25g
・粉寒天…2g
・水250ml

【作り方】
①鍋に水と粉寒天を入れ、中火にかけます。
②沸騰したら寒天を煮溶かして火を弱め、桜あんを加えてよく混ざったら火を止めましょう。
③ボウルに氷を入れた冷水を用意し、鍋底を冷やしながらとろみがつくまで混ぜ合わせます。
④ガラスの器などの型に流し入れ、冷蔵庫で1時間ほど冷やして固まったら完成です。
 お好みで桜の塩漬けを添えても良いですし、食べやすい大きさに切り分けて、桜の葉で
 包むのも素敵ですね。

桜のつぼみが開く頃になると、枝の下で足を止めて花を楽しむ方もいると思います。しかし、まだまだ自宅で過ごす時間が長いこの頃、桜あんの水ようかんを用意して、お家でお花見気分を満喫してみてはいかがでしょうか。


参考

※1
向田邦子著「眠る盃」講談社