糖と健康

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糖と薬膳との多彩な関係とは?!

超高齢社会突入や新型コロナウイルスの影響で健康志向への関心はさらに高まっています。特に不要不急の受診が減った中で、自分の健康は自分自身で維持しようというセルフケア意識が重要視されており、身近なセルフケアの一つとして薬膳の人気も高まっています。実は薬膳と糖とは関係があるのです。今回はこの関係を見てみましょう。

そもそも薬膳ってどういうもの??

薬膳は本来、中医学や漢方医学の理論から影響を受けている健康料理のことです。ただ、薬膳自体の正式な定義は実は存在していません。そのため、必ずしも中医学や漢方医学の理論通りに構成されていなくても構わず、いわばどんな料理でも薬膳になり得ます。特にヘルシーなメニューが多い和食や中華料理は、薬膳としての側面がかなり強いものになります。もちろん、漢方薬に使われている薬草や生薬を利用し、理論的にきちんとメニューが構築された本格的な薬膳もあります。また、最近では薬膳を西洋料理に応用した「フレンチ薬膳」や「イタリアン薬膳」なども存在しています。

いずれにしろ、薬膳は、「病気と呼ぶほどではないが、何となく不調を感じる(これを、健康と病気の間の状態の「未病」と呼びます)」方が、体や心のバランスを整えることで、未病から病気へと進むことを防ぐのに適した健康料理であるとまとめることができます。

薬膳で意識されている重要な点とは??

本格的な薬膳を考えようとすると、中医学や漢方医学の理論から勉強することになり、かなり複雑なので一般の方にとっては難しくなります。しかしながら、実は原則さえ押さえておけば、割と気軽に薬膳を日常生活に取り入れることが可能です(ただ、そんなに厳密にする必要はないです)。

ぜひ覚えておきたい原則としては、①旬のものを意識的に取り入れる、②地のものを意識的に取り入れる、③自分自身の体質に適した食材を使う、④好き嫌いは多少許容する、の4つです。

①に関しては、昔から言われてきた知恵なので理解しやすいと思います。日本には暑い季節、寒い季節、その間で変化する季節が2つの、4つの季節(四季)があります。それぞれの季節ごとに、その時期が一番食べ時である〝旬″が存在します。この〝旬″をうまく利用する訳です。例えば、夏の暑い時期には体を冷やすスイカを食べることで乗り切り、冬は逆に、体を温める生姜を食材に取り入れて乗り切る、などです。

②に関しては、これも昔から親しまれてきた風習かと思います。日本は国土が狭い割に、地域によって食生活の違いがかなり大きく、昔から地域ごとの名産品が存在します。例えば、北海道にはジンギスカン鍋という名物がありますが、羊肉などの体を温める食材が使用されていて、まさに他の地域よりも比較的寒い時期が長く続く北海道の人々にとってはぴったりの食事と言えます。現在は、日本中どころか世界中を簡単に行き来できる時代なため、この食生活の地域性という特色は弱くなってはいますが、たまに少しだけ意識してみると良いかもしれません。

余談ですが、筆者は愛知県出身でもう10年以上も東京に住んでいますが、未だに疲れている時などに、愛知県の八丁味噌が無性に恋しくなる時があります。実際に八丁味噌を取ることで疲れやストレスが嘘のように消えていきます。もしかしたら、愛知県に長いこと住んでいた間に、体にこういった薬膳の力が染み込んでいるのかもしれませんね。

③と④に関しては、現代栄養学とは違っている点になります。現代栄養学では、バランス良く食べることが推奨されていますが、東洋医学的考えを取る薬膳においては、栄養バランスはもちろん考慮するものの、各個人の体質を最も重視し、その体質に適した食材を摂取することを目指します。この考えにおいては、好き嫌いに関しては多少許容するということです。例えば、冷えを持っている人が、体が冷える食材を食べてしまうと、さらに冷えが悪化してしまうという最悪な事態につながる可能性があります。各々の体質に合わないものは体が自然と拒否すると考えて、そういったものは無理に摂取しなくて良いということです。

薬膳と糖との関係とは??

前述したように、薬膳には明確な定義はないため、あらゆる食材を薬草のように使用します。糖も例外ではありません。例えば、糖の中で特に健康に良いとされているものに黒糖がありますが、これは体を温める食材に分類され、適した体質としては、血が足りない体質(血虚)や血の巡りが悪い体質(瘀血)とされています。具体的には、不正出血や貧血、また、冷えからくる月経痛や月経不順などに適しています。

また、糖に関連する甘いものを見てみても薬膳との関係が見えてきます。濃密な甘さを持つハチミツは、食材としては平性に分類され熱と寒のバランスの良いものとされています。適量を摂取することで、咳、腹痛、乾燥肌などに適していると考えられています。

そして、これも甘い物の代表で、よく飴などお菓子に使われる水飴もれっきとした薬膳食材です。実は、この水飴に関しては、漢方薬にも使われていて、その生薬名を「膠飴(こうい)」と言います。体を少しだけ温める性質(微温)を持ち、糖を大量に含むため、頭や体の疲労回復に用いられます。

糖はエネルギー源としては体にとっては必須のものなので、薬膳としての側面があることは納得ですよね。糖の薬膳としての側面を理解し、日々の賢い糖ライフにつなげてください。

 

【ライター紹介】

宮川 隆 (みやがわ りゅう)

名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれており、近年は全日本情報学習振興協会にて講師としてYouTube動画の配信も行っている。
【全日本情報学習振興協会YouTube】
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