糖と健康

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進化における糖の重要な役割とは??


誰しもがロマンを感じる「進化」という言葉。宇宙ができて、地球が生まれ、その後生命が誕生した後に、さまざまな環境変化に適応していく形で人類も進化してきました。この進化の過程の詳細に関しては、未だに謎のベールに包まれていますが、糖という切り口でみていくと、色々とおもしろい側面が見えてきます。今回は糖と進化についてまとめていきたいと思います。

糖は生命の根幹に必須となっている?!

別のコラムでも紹介していますが、糖は我々の体を構成するタンパク質の設計図となるDNAやRNAの構造の中で主要となる構成要素です。体内で消化されて糖が作られる炭水化物はタンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルとともに、栄養素として重要であることはもちろんですが、体を構成する中心物質としての側面もあります。

実は遺伝子レベルでは人もチンパンジーも同じ??


周知のとおり、人はあらゆる生物種の中でもちろん一番高等生物であり、複雑な生理機構を持ちます。とすると、その基となる遺伝子(DNAやRNA)も、他の生物種と比べるとさぞかし複雑で、かつ、大きさなども全く異なるだろうと思われる方が多くいらっしゃると思います。実は、人とその他の生物種で比べたとき、遺伝子レベルでは、生物間の生理機能の複雑さの違いの割には大きく違いはないことがわかってきました。例えば、人とチンパンジーでは99%くらいは同じということがわかっています。現に、体の大きさなどは人とチンパンジーとほぼ変わらないということは、チンパンジーを見たことがあれば容易に理解できるものと思います。また、余談になりますが、人とチンパンジーが遺伝子レベルではほぼ変わらないという知見から、人のモデルとしてチンパンジーを使って、行動や思考などの固体レベルの実験を行うことが、マウスなどを使うより有効であるということがわかりますし、実際に世界のいくつかの機関でそのような研究計画が遂行されています。

進化のカギは脳にあり??

人は他の生物種と比較すると、比べ物にならないほど大きい脳を持っており、そのことにより、人にしかできない高度な思考ができるようになっています。進化の中で、人になる際に脳の肥大化が始まったのですが、この現象には糖が関係していることがわかってきました。一見、脳の肥大化には、体の構成要素として一番重要となるタンパク質が関係しているように思いますが、実は糖の方が寄与していることが示唆されています。その一因としては、火の登場により、糖質食品(デンプン食品)を火によって調理することができるようになったことだと考えられています。デンプンは生のままだと強固な構造のままになり、体に入ってもしっかりと消化できませんが、加熱することで、構造がほどけて、消化しやすくなり、エネルギー源として利用しやすくなるのです。エネルギー源としての糖がかなり多く脳に到達するようになったことで、脳におけるエネルギー効率も良くなり、結果として神経細胞が増殖を活発にして脳のキャパシティが増えることで、脳自体がどんどん大きくなってきたということです。なお、加熱して食すという行為は人独自の行動で、生物種の中で火を獲得した人において、脳が拡大したことで、多くの複雑な機能を獲得し、最も高等な生物へと成り上がることができたのです。

デンプンを消化する酵素も進化に関係してきた??


前述した通り、デンプンは生体内で消化されることでエネルギー源となる糖になります。これに関与するのが、唾液中にあるアミラーゼと呼ばれる消化酵素です。この酵素の設計図となる唾液アミラーゼ遺伝子を見てみると、人以外の霊長類では平均2つ存在するのに対して、現代の人では、平均6つも存在します。このことにより、人はより効率よくデンプンを糖へと変換できるということになります。また、興味深いことに、この遺伝子が増えたタイミングが火を使用した調理が始まった時期とだいたい同じ時期であることも示唆されています。このことから、火によるデンプン調理により糖の吸収が良くなることで炭水化物から得られるエネルギーが増加したことに加えて、タンパク質もそこに関与することで、結果として脳が増大してきたと推測されます。

糖鎖による認識機能の進化も寄与?!

こちらも以前のコラムで紹介していますが、生体内のタンパク質には糖鎖というものが結合していて、この糖鎖の存在がさまざまな生理機能に関与しています。この糖鎖は高等生物になればなるほど種類も多く、複雑になっていきます。研究の世界で、よく大腸菌を使って人のタンパク質を大量に作り出し、この大腸菌で作られたタンパク質を人に投与しても、期待する効果が発揮されないということは多いです。このことからも、人の機能を正しく発揮するためには、糖質の存在が不可欠であることが理解できます。進化の中で、前述したように糖によって脳が大きくなっただけでなく、糖鎖の種類の増加も引き起こしてきたことも、人を高等生物の最上位に進化させた要因と考えられています。
これまでの研究成果を考慮すると、もしかしたら、今後も糖によって進化していくのかもしれません。そう考えると、過度の糖質摂取は逆に体に悪影響になり得るのでおすすめはできないですが、適度な糖質摂取は進化という点で見ても重要かもしれませんね。皆さんもぜひ日頃より、適度な糖質摂取を心がけ、今よりさらなる「進化」をしてみてください。

 

【ライター紹介】

宮川 隆 (みやがわ りゅう)

名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれており、近年は全日本情報学習振興協会にて講師としてYouTube動画の配信も行っている。
【全日本情報学習振興協会YouTube】
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