糖と健康

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話題のマイオカインとは? 咀嚼が生み出すホルモンの力


マイオカインは脳を若返らせる物質として運動生理学の分野で注目されています。近年では食べ物をしっかりと噛むことでマイオカインを介して肝機能の発達を促すとして咀嚼機能との関連についての研究も盛んに行われています。ここではマイオカインとはどのような物質なのかを解説し、注目される効能についても紹介していきたいと思います。

マイオカインとは

マイオカインは特に運動生理学の分野で注目されるようになったキーワードです。「マイオ」はギリシャ語で「筋」を表し、「カイン」は作動物質を意味します。つまり、マイオカインとは筋肉から分泌されるさまざまな生理活性物質(ホルモン)の総称です。ヒトの身体で作られるマイオカインは、たんぱく質、核酸、ペプチドを含めて現在では650種類以上が同定されています。

運動は健康によいとされていますが、その効果を生み出すメカニズムの一つにマイオカインがあると考えられています。マイオカインは運動することによって筋肉の収縮や伸展繰り返し骨格筋から分泌されます。これが血流を介することで脂肪組織や肝臓などの遠隔臓器に作用すると考えられているのです。

マイオカインが健康効果を生み出すものの一つとして考えられているものの、詳しい作用はまだはっきりとわかっていないものばかりです。今後の進展に期待するとともに、ここではこれまで明らかにされてきた範囲のなかで解説していきます。※1

マイオカインの種類


マイオカインにはいくつもの種類があり、運動によって骨格筋から分泌されるものや骨格筋以外の臓器からも分泌されているものがあります。ここではマイオカインの種類と効果についてまとめ、紹介していきます。※2

・筋肉に存在するマイオカイン※3
ミオスタチン…骨格筋細胞の増殖を抑えるたんぱく質。筋肉が異常に発達することでエネルギーを浪費することを防ぐ。

カテプシンB…細胞内に蓄えられているたんぱく質分解酵素群の総称。記憶力を高める可能性があるともいわれている。

IL-6…感染や疾患に対する免疫系、血液系などの生体防御を活性化する重要な物質。免疫細胞の暴走を抑える。

SPARC…大腸がんの細胞の自然死を活性化させて、その発症を抑える可能性がある。

Irisin…脳の神経細胞の新生・再生に欠かせないBDNFと呼ばれるたんぱく質の濃度を高め、脳の働きを促進する。さらに肥満や糖尿病の予防も役立つ。

IGF-1…アルツハイマー型認知症の原因となる物質のアミロイドβを減らす。

MIF…骨格筋における糖の取り込みを抑制させる ※4

・脂肪に存在するマイオカイン
アディポネクチン…動脈硬化の進行を遅らせる

脳の成長に特に有効とされているのがBDNFとIGF-1という物質です。BDNFは脳の海馬周辺で増加する脳由来の神経栄養因子とされています。運動時の筋収縮によってその分泌が促されています。※5

骨格筋から分泌されたマイオカインは、血液の流れに乗って体内に届けられ働いています。しかし、実際にマイオカインは運動不足の骨格筋からは分泌されにくいという特性をもちます。したがって、マイオカインの分泌を促すには、骨格筋を動かす運動をコンスタントに続けて筋量を増やすのが有効とされています。

マイオカインと口腔状態の関係


マイオカインは咀嚼運動によっても分泌が促進されます。咀嚼筋において産生されるマイオカインはIL-6です。IL-6が欠損しているマウスでは咀嚼筋の易疲労性が認められ、IL-6は激しい筋活動に対して抗疲労物質として働くとの報告があります。※6 

また、歯周病患者の血中ではIL-6の上昇が報告されています。IL-6は肝臓におけるC反応性たんぱく質(CRP)を誘導するもので、どちらもインスリン抵抗性に関与することが知られており、炎症性の物質により歯周病が血糖コントロールに悪影響を与える原因として考えられています。重度の歯周炎患者は糖尿病の発症リスクや血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1cの悪化度、糖尿病合併症の頻度が高いことが報告されています。

歯周病がインスリン抵抗性を誘導するメカニズムは明らかになっていませんが、インスリンのシグナルを阻害する因子としてはマイオカインのTNF-αが認められています。※7

マイオカインは咀嚼筋からも分泌されるもので、歯周病やその延長で血糖コントロールにまで影響を与える可能性があります。口腔内の状態を健康に保ち咀嚼運動を促すことは、血糖コントロールなど意外な部分にまで関わることもあるのです。

マイオカインのメカニズムは解明されていない部分も多くあります。しかし、今後明らかになることにより、私たちの健康へよい影響を与えてくれるものだと期待することができるでしょう。
 

※1骨格筋の「質」を制御するマイオカイン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/71/1/71_79_2/_pdf/-char/ja

※2 筋肉から分泌される「マイオカイン」、免疫力アップや認知症予防にも期待
https://athleterecipe.com/column/21/articles/202009210001235

※3 アスレシピ 体を動かさないと病気に、「マイオカイン」を分泌させるには
https://athleterecipe.com/column/45/articles/202110280000671

※4 マイオカインによる糖代謝の調節
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/64/1/64_17/_pdf/-char/ja

※5 脳由来神経栄養因子(BDNF)は 骨格筋機能制御および運動能力に重要な役割を果たしている
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/24/1/24_81/_pdf/-char/ja

※6 マウス咀嚼運動におけるIL-6の役割に関する研究
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=23982&file_id=18&file_no=1

※7 歯周病と全身疾患の関連口腔細菌による腸内細菌叢への影響
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=648


ライタープロフィール

片村優美(管理栄養士)

病院にて給食管理や栄養指導に従事しフリーランスとして独立。webメディアでは健康・栄養系のライターとして記事を執筆しています。その他、食育教室や自治体主催の料理教室、短期大学の非常勤講師などの仕事を通じて、食の大切さを伝える活動をしています。