名前に「糖」が入っている糖尿病。この病気の患者さんの尿は独特の甘い香りがしますが、その尿から糖が検出されたことから糖尿病と名付けられました。日本において増えている病気の1つです。今回はこの病気について正しくご説明していきます。
糖尿病って侮れない??
糖尿病はその名前のせいで単純に糖が原因で、糖がただ悪いものという認識になってしまっているという方も少なくないです。数ある生活習慣病の中でも、何故糖尿病だけがよく特別視されるのかと思っている方もおりますが、確かに侮れない部分もあります。例えば、糖尿病に罹患すると将来のがんの発症率も高くなることもわかっています。さらに昨今世界中を恐怖に陥れている新型コロナウイルスへの感染率も高くなることも報告されています。ただ糖尿病を正しく理解している人は意外と多くないと思われます。今回のコロナウイルスの件でも言えますが、無知による恐怖というのは一番厄介なものです。まずは糖尿病自体を正しく知りましょう。
糖尿病には異なる特徴を持つ二種類がある?!
ブドウ糖はエネルギー源としてかなり重要ですが、多すぎた場合に問題になってきます。人は古来より、実はずっと栄養飢餓に悩んできました。その中でいかに血糖値を上げるかが重要でした。つまりは血糖値上昇が優位になっているのです。その証拠として、人の体内には血糖値を上げるホルモンはいくつかあっても下げるホルモンは一種類しかありません。それがすい臓から分泌される「インスリン」です。正常状態であればこのインスリンの働きにより血糖値は一定の範囲内におさまっています。何らかの異常でインスリンが少なくなったり、量はあるが効果が弱くなったりして(これをインスリン抵抗性と言います)、高血糖が続いてしまう状態を糖尿病と言います。血糖値が高くなる病気という点では共通ですが、大きくわけて二種類が存在します。①1型糖尿病と②2型糖尿病の二つです。この二つは大きく特徴が異なります。
二つの違いを見てみよう!!
具体的に見てみましょう。①は自己免疫の異常やウイルス感染などによって膵臓のβ細胞が破壊され、インスリン自体が欠乏することで引き起こされます。これは肥満とは全く無関係で、成人だけでなく、小児でも起こりえます。それに対して、②は過食や運動不足などでインスリン分泌低下や前述したインスリン抵抗性が生じることで起こります。絶対ではないですが、肥満の方が罹患することが多く、40歳以上の罹患者が多いです。実は他にも、妊婦さんがなる妊娠糖尿病や先天的な遺伝子異常によって起こる糖尿病などもありますが、日本においては糖尿病患者さんの95%以上は②ですので、これがメインになります。そして、この②こそが、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣の乱れがダイレクトに関係するものです。逆に言うと、自力で予防しうるとも言えます。
糖尿病の診断方法とは??
健康診断の結果でもよく目にすると思いますが、(a)空腹時血糖値、(b)HbA1c、(c)随時血糖、(d)ブドウ糖負荷試験2時間値が糖尿病の診断のための検査値になります。(a)は前日の夕食後から絶食をして翌日に血糖値をはかります。(b)と(c)は食事しかたに関わらず採血して検査できます。(d)は10時間以上絶食した状態で1度目の採血をして、その後75gのブドウ糖を摂取し、その後2時間後に再度血糖値を測定するものです。この中でも特にメインとなるのが(b)になります。数値(以前使われていたJDS値ではなくNGSP値)として6.5%以上で糖尿病型と診断されます。よく薬局で聞かれることが多いのも、この検査値が最も重要な指標だからです。正常型と糖尿病型の間には境界型も存在し、これは糖尿病予備軍と呼ばれ、これも問題になっています。
糖尿病の恐怖は高血糖にあらず?!
糖が悪いと思われがちな中、高血糖が悪いと思われていますが、必ずしもそうではありません。高血糖自体がすぐにそのまま悪い訳ではありませんが、高血糖が続くと、血管が傷ついたり、血液がドロドロになったりします。この結果、毛細血管が特に集中する網膜、腎臓、手足に特にダメージを与えてしまうのです。それぞれ「糖尿病網膜症(失明するなど)」、「糖尿病腎症(腎障害など)」、「糖尿病神経障害(足の指が壊死するなど)」と言い、これが糖尿病の三大合併症です。これらの症状は、糖尿病と診断されてから5年以上たってから出現することが多く、逆に言うと、それまでに血糖値を安定にするなど、適切な対処をすると合併症を防ぐことができます。糖尿病は名前から、尿に糖が出ることが悪いと思っている人もいるようですが、それはお門違いで、糖尿病の本当の怖さは、放置することでこの合併症が起こる可能性があることです。今回のコラムは糖尿病自体を紹介しましたが、次回のコラムでは糖尿病の治療や予防などを紹介します。
【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門 助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。