「精神分析学」のフロイトは、意識は氷山の一角であり、意識の大半は無意識が占めていると説きました。
喫煙を代表として、ガムが好きだったり飴を食べたりという「口が寂しいからなんとなく含む」というような習慣は、口唇期(こうしんき)が影響しているとフロイトは述べています。
「口寂しい」という口唇的な欲求を満たすために、飴はどのように役立つのかを考えていきたいと思います。
本能的に得る快楽。口唇期(こうしんき)とはどんな時期?
赤ちゃんが生まれて初めて口にするのは母乳であり、誰から飲み方を教わるわけでもなく本能的に吸うことができます。生まれてからまだ間もない赤ちゃんは、母親の母乳から栄養を得るだけではなく、唇に感じる快感や抱かれる安心感を自然と感じ取っています。赤ちゃんは唇で何かをくわえること自体が快感と結びついているのです。
また、乳首をふくむために赤ちゃんは母親の腕に抱かれます。この抱かれるという刺激は、精神的な安堵感をもたらしてくれるとともに、聴覚や視覚などのさまざまな器官の発達に欠かせない刺激です。「三つ子の魂百まで」という言葉が存在するとおり、この口唇期をはじめとして性格の基盤は作られるといえるほど、重要な時期といえるでしょう。
口唇期は前期と後期に分けられ、前期は生まれてから離乳食が始まるくらいまでの期間を、後期は離乳食を終えてから2歳くらいまでの期間をいいます。その後はトイレトレーニングの時期にあたり肛門期と繋がるのですが、この肛門期では自分で排泄することの喜びを得ていきます。
この間に口唇への十分な欲求が満たされない場合は、大人になってからさまざまな形で現れる可能性があるということも示唆されています。例えば固着が一つの例であり、飴やガムを食べるなどの習慣も含まれます。ここでいう「固着」とは、発達の途上での行動儀式や精神的エネルギーの対象が固定されることを指します。
しかし、一方で愛情が過度に満たされた場合にも固着が起こるとされています。これは口唇期に幸せな経験をしたことによってその経験から離れ難くなることが原因で起きるようです。どちらのパターンの固着でも、大人になってから神経症などの症状につながる場合があります。
口唇欲求が高まる原因とは?
口唇的欲求が満たされていない場合、攻撃的や皮肉的になるなどの性格的な特徴が現れる場合もあるといわれています。しかし、過度な固着によって生じてしまった心の病は、口唇的な欲求だけが原因ではありません。
心の病は、固着だけではなく道徳心や法律などさまざまな欲望との葛藤によって起こると考えられています。そのため、口唇期に十分な欲望が満たされなかったとしても、誰にでも心の病が起こるわけではないそうです。
そう捉えると、固着を防ぐために無理やり離乳をさせたり、反対に過剰に愛情を与え続けること自体はそう大きな問題だけではないのかもしれません。そのあとに発生してくるさまざまな葛藤の影響を受けて、人格は形成されていきます。その都度解決できる力を備えていれば、子どもの頃の性欲が満たされていなくても解決していけるはずなのです。
習慣は治すものではなく上手く付き合うもの
もし、自分に飴やガムをよく食べるというような習慣があると気づけたら、心の裏に存在する欲求や葛藤を知ることができます。口寂しいから飴を舐めるという単純な行為でも、自分を見つめ直す良い機会になるのです。
ただし、喫煙や飲酒は健康を害するリスクが高く、あまりおすすめとはいえません。一方で、飴に含まれている糖は身体にとっては必要不可欠な存在です。特に、糖質は脳の働きにも関わり、不足すると眠くなったり疲れやすくなったりというさまざまな症状の原因となります。
飴は口のなかにとどまっている時間が長いので、高カロリーで食べやすいチョコのようなおやつをつまむよりはカロリーを抑えられます。そういった見方をすれば、カロリーを抑えたいダイエット中のおやつなどにも役立つでしょう。もし、喫煙や飲酒のように健康的なリスクが高い習慣を持っているのであれば、代用として飴を活用してみるのも良いのではないでしょうか。
まとめ
精神分析を確立したフロイトの思想は、現代でも大きな影響を与えています。知らず知らずのうちに身についた口唇的な習慣は、悩みや問題点のヒントになることもあります。
飴には口唇的欲求を満たして、精神的な安心感を与えてくれる役割もあるのです。お気に入りの飴を見つけて、毎日の生活をさらに楽しみましょう。 飴にまるわる話はこちらで紹介しています。あわせてご覧ください。
・飴とキャンディの違いとは? 有平糖が飴細工に使えるワケ
参考文献
山竹伸二監修 (2016) 『図解 ヒトのココロがわかるフロイトの話』日本文芸社.
ライタープロフィール
佐々木優美(管理栄養士)
病院にて給食管理や栄養指導に従事しフリーランスとして独立。webメディアでは健康・栄養系のライターとして記事を執筆しています。その他、食育教室や自治体主催の料理教室、短期大学の非常勤講師などの仕事を通じて、食の大切さを伝える活動をしています。