糖とスイーツ

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パティシエの仕事を「糖」が支える――1 お菓子は「糖」で化粧する!?

(photographs by Hide Urabe)

ドーナッツのフロスティング、ブリオッシュのあられ糖、レモンケーキのアイシング……。
お菓子の見た目や味わいに表情をもたらす仕上げの役割を「糖」が担うケースは少なくありません。

これらには、生地のしっとり感を守ったり、味わいを保持する効果もあります。


「糖」は主役の一人です。

フランス菓子の世界には、「sucré シュクレ」「salé サレ」という分類があります。前者は砂糖を使った甘いお菓子、後者は塩で味を付けたしょっぱいお菓子を指します。
糖と塩は料理における2大基本調味料と言えますが、レシピの配合を見ると役割が違うことに気付きます。

たとえばベーシックなフランス菓子のひとつ「Quatre quart キャトルカール」。キャトルカールとは「4同割」という意味で、生地の配合がそのまま名称になったお菓子ですが、小麦粉、卵、バター、砂糖を「1:1:1:1」で合わせて焼きます。英語の「パウンドケーキ」が、小麦粉、卵、バター、砂糖を1ポンドずつ使って作るところから名付けられているのと同じ。これがフランス菓子の基本中の基本配合です。

つまり、砂糖はお菓子作りの“主材料”のひとつ。では、塩を料理でこれほど大量に使うでしょうか? 使いませんよね。塩はあくまで味付け役。もちろん調味以外の様々な働き(脱水、殺菌、防腐など)はありますが、どこまでいっても主役は食材。塩が主役になることはありません。


パリッパリで艶やかなカラメルを作る熟練の技。

フランス菓子において、糖は生地本体の主材料であると同時に、糖だけでひとつのパーツにもなります。クレーム・ブリュレの表面のカラメルを思い浮かべてみてください。スプーンの背でコンコンと叩いて、パリンッと割れたところにスプーンを差し込む時の密やかな喜び……。「クレーム・ブリュレの愉しみの半分はカラメルにある」と主張しても反論する人などいないでしょう。

クレーム・ブリュレによく似た「ピュイ・ダムール」というお菓子をご紹介したいと思います。
「Puits d’Amour=愛の泉」という意味のこのお菓子は、今はなきパリの老舗パティスリー「コクラン・エネ」の名物でした。日本でもわずかですが、作り続けているお菓子屋さんがあります。東京・北綾瀬「アンプリル」はその1軒。
「アンプリル」の岡田峰幸シェフが修業した東京・八王子「アポワン」(現在は閉店)のスペシャリテのひとつで、岡田シェフは「アポワン」での修業時代に「ピュイ・ダムール」のカラメリゼ担当でした。そこで学んだ味と技を今の店で披露しています。

【「アンプリル」の「ピュイ・ダムール」。折りパイ生地の中にカスタードクリーム、その表面をカラメルで覆う。】

「ピュイ・ダムール」のおいしさのポイントはパリッパリのカラメルですから、「アンプリル」では注文を受けてから表面をカラメリゼします。カップ状の折りパイ生地に詰めたカスタードクリームの表面に砂糖をふり、カンカンに熱した焼きごてを当ててカラメル状にしていく。これ、かなり熟練の技と言っていいでしょう。

カフェで食べるクレーム・ブリュレも、多くの場合、オーダーが入ってからカラメリゼします。ただし、表面にふったグラニュー糖にバーナーの炎を当てて、こんがり色付けばOK。その場で食べてもらうクレーム・ブリュレはそれでいい。でも、パティスリーのお菓子の場合、お客さんは持ち帰って食べますから、パリッパリの持続時間を少しでも長くするために、焼きごてで分厚いカラメルに仕立てます。

「グラニュー糖と含蜜糖――コクを出すために含蜜糖を加えています――をふって焼きごてを当てる、という工程を繰り返します。サラサラの砂糖にカンカンに熱した焼きゴテを当てると、煙を上げてジュッと溶けて焦げるのですが、焦がし過ぎると苦味が立つため、寸前で止めなければならない。3度繰り返してカラメルを厚く重ねていき、さらに粉糖をふって焼きゴテを当てて完成です。グラニュー糖と含蜜糖のカラメルは味出し、粉糖のカラメルには艶出しの意味があります」
 

【分厚いカラメルができたら、粉糖をふって艶のあるカラメルに仕上げる。】
 

【焼きごてを当てると瞬時にカラメルになる。粉糖によるカラメルはひと際輝きを放つ。】
 

化粧の仕方にもいろいろあります。

カラメルのパリンと硬質な食感とほろ苦く香ばしい焦げ味に対して、白いすりガラスのような半透明の美しさが持ち味なのはアイシングです。レモンケーキやレモンクッキー、ウィークエンドなどでよく見かけますよね。 こちらは、粉糖と水を練り合わせてペースト状にして使います。砂糖の純粋な甘さが持ち味。埼玉県さいたま市の「プティ・クレール」は、レモンドーナッツにかけるアイシングを水ではなくレモン果汁で練り上げて、レモンの風味を立たせています。

フランス菓子の世界では、仕上げのことを「dresser ドレッセ」と呼びますが、アイシングはまさにドレッセの重要パーツと言っていいでしょう。キャトルカール(パウンドケーキ)とウィークエンドはよく似たお菓子ですが、すっぴんのキャトルカールが普段着菓子なのに対して、アイシングでコーティングされたウィークエンドは週末のよそいき菓子の面持ちを湛えます。しかも、アイシングが生地のしっとり感を保持する保護材としても機能してくれる。見た目良し味良しのお役立ちパーツなのです。
 

【埼玉県さいたま市「プティ・クレール」の「レモンドーナッツ」。レモン風味のアイシングが可愛らしさもプラス。】
 

カラメルやアイシングのようにひと手間かけずとも、グラニュー糖や粉糖、あられ糖はそれだけで立派な仕上げパーツになることはご存じの通りでしょう。
とりわけ伝統菓子や郷土菓子のように、道具も設備もまだ進歩しておらず、材料も地元の素朴なものだけで作り続けられてきたお菓子にとっては、グラニュー糖やあられ糖がすでに贅沢な装い。フランスのアルザス地方の伝統菓子クグロフなどは、帽子のような壮麗な形にたっぷりのグラニュー糖をまぶすと、もうそれだけで豪華に感じられます。
 

【「アルカション」の「パスティス・ランデ」。見た目もインパクト大だが、あられ糖が口の中でザクザクと砕ける食感が心地良い。】
 

あられ糖が存在感を放つのは、東京都練馬区の「アルカション」の「パスティス・ランデ」というフランス南西部にあるランド地方の伝統菓子。発酵生地の上面にふってからオーブンで焼きますが、「オーブンの温度が高いと、あられ糖が溶けて飴状になってしまう。そうならないように、低めの温度で時間をかけて焼き上げるのがポイントです」と森本慎シェフ。

お菓子は、糖の使い方ひとつでグレードアップする。そして、その使い方にはパティシエの技が潜んでいます。


(ショップデータ)

アンプリル
東京都足立区谷中1-5-3 パークサイド新家1F
03-5849-3372
10:00~19:00
不定休

プティ・クレール
埼玉県さいたま市南区南浦和2-32-10
048-711-6716
11:00~19:00(土・日・祝~18:00)
火曜休

アルカション
東京都練馬区南大泉5-34-4
03-5935-6180
10:30~19:00
月曜休、不定休あり
 

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