我が国においては新型コロナウイルス感染症拡大も以前よりは収まり、自粛も徐々に解除されつつある昨今。一部の企業などではまだ在宅ワークを引き続き実施しているところもあります。
また、在宅ワークを導入していなくてもなるべく定時に帰宅することを促す企業も少なくないです。そんな中、親子でいる時間が増えたという声を耳にします。もうすぐ夏休みも控えていることもあり、こういう時こそ親子で科学について触れてみるのもいいかもしれません。
今回は、親子でも出来る糖に関する簡単な実験を紹介したいと思います。
だ液を使った王道の実験とは?!
デンプンなどの糖分を摂取する時に、真っ先に入るのは口の中です。口の中にはだ液が常に分泌されており、その中には消化酵素が含まれており、デンプンを麦芽糖に分解します。余談ですが、あんかけの中華飯を食べている時に、しだいにあんかけの粘性がなくなってさらさらになってきますが、これはだ液の中の酵素が混入することで分解が起こるからです。
この現象を目で見るようにするためには、以下のような実験をすると良いです。実験に試験管を使用しますが、100円ショップなどで手軽に手に入ります。
① 水を沸騰させて、そこに片栗粉を入れて完全に溶かして冷ました液体(以下、デンプン液)を用意します。
② 試験管を2本用意し、その2本に同じ量のデンプン液を入れます。
③ 綿棒を2本用意し、1本目にはただの水を、2本目にだ液をよくしみ込ませます。
④ その綿棒を各々違う試験管に入れます。
⑤ その2本の試験管を脇に挟んだまま10分以上放置します。
⑥ その後、その2本の試験管にヨウ素液(市販のイソジン®など)を加えて色の変化を確認します。
デンプンがあればヨウ素液の茶色が青色に変わりますが、デンプンが分解されるとヨウ素液の茶色はそのままになりますので区別できます。また、もう少し踏み込んで温度を変えてやるということもできます。脇に挟んだのは、だ液の中の酵素の適温が体温と同じくらいの約37℃だからですが、この温度を変えることで酵素の働きも変わります。試験管をさらに追加で4本用意して、そこにデンプン液を加え、2本は沸騰しているお湯の中でしばらく加熱し、残りの2本は氷水の中でしばらく冷やします。そして、まず加熱中の2本の試験管に水とだ液をしみ込ませた綿棒をそれぞれ入れると同時に、冷やしている2本の試験管にも水とだ液をしみ込ませた綿棒をそれぞれ入れます。
その後ヨウ素液を加えます。もし実験がうまく行っていれば、この4本ともヨウ素液の茶色の色は変化しないはずです(変化してもわずか)。体温より高くても低くても適温ではなくなるためです。
ちなみに、もう少し詳しく説明すると、デンプンにはアミロース(うるち米や小麦に多く入っている)とアミロペクチン(もち米に多く入っている)の大きく2種類ありヨウ素液はアミロースと反応して青くなりますが、アミロペクチンとは反応せず茶色のままです。普段はあまり意識していないうるち米ともち米の糖分の違いを目で見るのにもヨウ素液を使った実験は有効となるので合わせて行ってみてください。
糖の種類を区別することも簡単にできる?!
多糖が分解されてできるのが二糖や単糖(二糖がさらに分解された多糖の最終分解産物)です。これらを区別できる実験もあります。
糖を加熱すると褐色物質ができるカラメル化反応が起きますが、糖により融点が異なるので、このカラメル化の様子に違いが見られることを利用します。
まず、二糖として、a. スクロース、b. トレハロース、c. マルトース、d. ラクトースを、また、単糖として、e. グルコース、f. フルクトース、g. ガラクトース、h. マンノースを用意します。各々をアルミカップに大さじ半分くらい乗せ、ホットプレートで200℃まで加熱します。その際に、融解しにくく色の変化がほとんどないものはb.で、ほとんど融解しないものの融解した部分が褐色になるものはd.です。それ以外の糖は比較的すぐに溶け始めて飴状になりますが、その際に無色~黄褐色になるものを見て、色が薄い順で、c.、e.、g.、h.となります。茶褐色~黒色になるものがf.とa.で、a.の方が少しだけ黒により近い色となります。
この実験で大体ではありますが、糖の種類まで区別できます。しかしながら、この実験は温度調節や時間などの点で少しナイーブであり、まずは条件検討をしてみてから実際の本番の実験を行い、レポートにまとめると良いでしょう。加えて、200℃まで加熱はするものの、実際にはもう少し低めの180℃くらいの温度域で観察しやすいので、自分が使う加熱器の特徴を考慮する必要もあります。
糖と一口にいってももちろん色々な種類があって、味も全部が全部甘いという訳ではないです。普段は感じられないですが、実験を自分の手でやってみることで糖というものをより理解でき、料理をする際にもその知識が応用できるのではないでしょうか。ご自身でも是非色々な実験を考えてみてください。
【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門 助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれている。