糖と健康

Category

タンパク質を柔らかく、でんぷんを守る。砂糖に秘められた機能とは

砂糖は料理に甘みを付けるという嗜好的な役割をもちますが、調理の過程においてそれ以外にも重要な役割をたくさん持っています。ここではタンパク質やでんぷんに対して、砂糖がどのような働きをするのかを解説していきます。

肉を柔らかく……タンパク質と砂糖の関係性

食品には水分が含まれており、砂糖にはその食品中の水分を奪い取ったり保持したりする働きがあります。これは砂糖の親水性という性質によるものです。

例えば、肉を焼いてソテーを作るときをイメージしてみましょう。肉をそのまま焼いてしまうとなかの水分が奪われ固い食感になってしまいます。これを回避するため、焼く前の下ごしらえの際に砂糖を揉み込んで浸けておくと、仕上がりを柔らかくすることができます。これは、砂糖が水に溶けることで組織の間に入り込み、砂糖が水分を引きつけてタンパク質であるコラーゲンと結びつくためです。コラーゲンと砂糖、水分が相互作用し、水分の蒸発を抑えてくれます。

また、卵白を泡立てて作られるメレンゲは、砂糖を加えることによって卵白のタンパク質の水分を砂糖が抱え込み、泡の安定性を保持してきめ細やかな状態をキープすることが可能となります。この砂糖を添加させることによって泡を安定させる性質は、生クリームをホイップするときにも作用しています。

タンパク質を含む食品と砂糖の関わりは食品に含まれている水分が重要な鍵を握っており、砂糖の親水性によって機能的なメリットをもたらしてくれると言えるのです。※1

ごはん、餅……でんぷんの老化防止にも砂糖が効く

ごはんや餅などのお米からできている食品にはでんぷんが含まれています。このような食品を放置してしまうと固くなってしまうのですが、これはでんぷんの老化によるものだということを知っていましたか?

でんぷんの老化は、生でんぷんに水を加えて加熱したことで得られる流動性が、放置することによって水分が蒸発したために起こります。このようなでんぷんを含む食品に砂糖を加えると、砂糖の親水性によって糊化状態を保つことができます。和菓子や酢飯などが固くなりづらいのはこの砂糖の親水性という性質のためです。

また、砂糖には食品の防腐作用もあります。もともとカビや細菌など食品の腐敗の原因となる微生物は、水がないと増殖できません。しかし、砂糖をたっぷりと使ったジャムや羊羹などは砂糖が食品中の自由水と結合することで、カビや細菌が水分を利用するのを防いでいます。また牛肉のしぐれ煮や肉そぼろ、果物のシロップ漬けなどは味が濃く仕上げられていますが、高濃度の砂糖が加えられていることで保存性も高まっています。※1,2,3

まだまだ気になる砂糖の効果

砂糖には親水性によって肉を柔らかくしたり、でんぷんが固くなるのを防いだりする働きがあることを紹介しました。砂糖にはこのほかにもさまざまな働きがあります。

・脂質の酸化防止
食品中の水分のなかには酸素が溶解している場合がありますが、砂糖が結合することで酸素が溶解しにくい水となり、脂質の酸化が抑えられやすくなります。例えばクッキーのような焼き菓子はバターをたっぷりと使いますが、脱酸素剤を入れることで品質を保持できます。この働きには焼き菓子に含まれている砂糖も関わっています。※2

・臭みをとる
砂糖には肉を柔らかくさせる働きのほかに、肉の臭みをとる働きもあります。これは食品から発する匂い成分を保持して揮発させない性質を持つためです。ちなみに蒲焼や照り焼きの良い香りは糖とタンパク質が一緒に加熱されることによって起こるメイラード反応によるもので、動物性食品の脂肪酸分解成分が加わることで特徴的な香りを形成しています。※4

・メイラード反応(アミノカルボニル反応)
糖にアミノ酸(タンパク質)を加えて加熱すると「焼き色」を作ることができますが、この反応をメイラード反応といいます(アミノカルボニル反応とも呼ばれます)。食品に置き換えて考えると、砂糖に牛乳や小麦粉、卵を加えて加熱したときの反応が当てはまります。アミノ酸の種類によっても発生する香りが異なるというのは興味深い点です。※2,4

・食感やボリュームの変化
スポンジケーキなど小麦粉や卵と合わせる料理は、砂糖の量によってボリュームを変えることが可能です。卵白の気泡を安定させる働きによって食感も変わります。※1

・熱凝固性
砂糖には熱凝固性を左右する力があります。例えばプリンを作る場合、加える砂糖の量によって仕上がりの硬さが変わってきます。液量に対して砂糖の濃度が30%を超えるとプリンの形が整わなくなります。※1

・発酵促進
パンを作るときに使うイーストは、砂糖に含まれる糖質によって炭酸ガスを発生させるためふっくらとした仕上がりになります。※1,3


砂糖は甘味料としての役割が大きいですが、実はそれ以外にもこんなにたくさんの機能を持っています。普段は料理やお菓子を甘くするために使うことの多い砂糖ですが、こうした科学的な視点から見てみると、さらに料理が楽しくなるのではないでしょうか。


参考

※1 独立行政法人 農畜産業振興機構 砂糖の働きと料理
https://www.alic.go.jp/koho/kikaku03_000120.html

※2 食教育情報WEB 大阪教育大学 砂糖の性質
https://lfs.ict.osaka-kyoiku.ac.jp/science-of-cooking/suger-property

※3 フジ日本製糖株式会社 知られざる砂糖の秘密と性質
https://www.fnsugar.co.jp/sugar/natured

※4 独立行政法人 農畜産業振興機構 肉の加熱調理に砂糖を用いる効果
https://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0004a.htm


ライタープロフィール

佐々木優美(管理栄養士)

病院にて給食管理や栄養指導に従事しフリーランスとして独立。webメディアでは健康・栄養系のライターとして記事を執筆しています。その他、食育教室や自治体主催の料理教室、短期大学の非常勤講師などの仕事を通じて、食の大切さを伝える活動をしています。