糖と健康

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糖が猛毒を検出するための救世主?!

皆さんもご存知のように、この世にはたくさんの毒が存在します。ドラマでも毒を飲んで死ぬという場面が多々登場しますよね。毒を誤飲しないようにするためにも、なるべく早期に毒を検出する技術が重要となります。今回はこの観点から、糖の果たす重要な役割について理解していきましょう。

毒といっても千差万別!!

 

毒は「生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称」と定義されます。興味深い点は、ある生物には毒でも、ある生物にとっては毒にはならないということです。それどころか、実は毒と薬は紙一重で、毒も少量なら薬として機能することもあります。加えて、ある生物の毒が別の生物には薬として使えることもありえます。逆に、大量の薬を服用すると毒になってしまうこともあるのです。こうした理由から、薬の過剰服用には注意が必要となります。

また英語で言うと、毒全てを総称してpoisonと呼ばれますが、その中でも生物(動物、植物、微生物)由来のものはtoxinと言い「毒素」と言われます。さらに、ヘビなどの毒腺から分泌される毒はvenomと呼ばれます。その他にも、この世の中には様々な種類の毒が存在します。具体的に見てみると、刑事ドラマでよく目にする青酸カリ(無機物)やヒ素(鉱物)、過去に事件で使われたサリン(化学兵器由来の毒)、食中毒で有名になったベロ毒素(大腸菌O-157が作り出す毒)やフグ毒であるテトロドトキシン(実はフグ自身が作ったものではなく、フグが食べるプランクトンが含んでいる毒)など、人工的なものから生物由来のものまで多岐に渡ります。

毒の強さに注目してみると??

数多ある毒のうち、殺人事件や自殺のシーンでよく登場する青酸カリが最強の毒ではないかと思う方もいるかと思いますが、実はそうではありません。また、有名なサリンやヒ素も実は毒の中では比較的弱めのものになります。

毒の強さの指標は、LD50(半数致死量:投与された半数が死亡する量で単位はmg/kg)で表現しますが、これが小さい値ほど少量で死に至る、つまるところ毒性が強いということになります。この観点から、主要な毒を弱いものから順に並べてみると、下記のようになります。

  • 青酸カリ(5~10 mg/kg)
  • 青酸ガス(3 mg/kg)
  • ヒ素(亜ヒ酸)(2 mg/kg)
  • サリン(0.5 mg/kg)
  • アコニチン(トリカブトの毒)(0.3 mg/kg)
  • ジフテリア毒素(ジフテリア菌の毒素)(0.1~0.3 mg/kg)
  • コレラ毒素(コレラ菌の毒素)(0.026 mg/kg)
  • VXガス(化学兵器)(0.015 mg/kg)
  • テトロドトキシン(0.01 mg/kg)
  • ベロ毒素(0.001 mg/kg)
  • ダイオキシン(非意図的生成物質)(0.0006 mg/kg)
  • 破傷風菌毒素(破傷風菌の毒素)(0.000003 mg/kg)
  • ボツリヌストキシンA(ボツリヌス菌の毒素)(0.0000011 mg/kg)
  • ボツリヌストキシンD(ボツリヌス菌の毒素)(0.00000032 mg/kg)

傾向としては、青酸カリなどの人工的なものよりも生物由来のもののほうが毒性は強く、最強の毒はボツリヌス菌が作り出す毒であることがわかります。一見、人工的な毒の方が危険なように思いがちですが、そうではないのです。またボツリヌス菌の毒素が強いことはあまり知られていないため、しっかりと覚えておきたいところです。

ボツリヌス菌の毒素の特徴とは??

 

ボツリヌス菌は酸素がない状態を好む細菌で、食中毒の原因菌として有名です。原因となるのは、缶詰、瓶詰、真空包装食品など酸素がすくない状態で保存される食品になります。ちなみに、食品添加物の亜硝酸ナトリウムはボツリヌス菌の増殖を抑制する効果があります。また、ボツリヌス菌の毒素であるボツリヌストキシンは熱に弱いですが、細菌自体は熱に強いため注意が必要になります。

毒素の種類としては、A~G(発見順に名付けられた)の7種類に分けられます。毒性の強さとしてはDの方がAよりも強いですが、7種のうちCとDはヒトで中毒を起こすことがまれなので、ヒトの場合にはAを最強毒と考えて良さそうです。ボツリヌストキシンの作用としては、筋弛緩作用や鎮痛作用などが確認されます。また、中毒症状としては下痢や嘔吐などの消化器症状(ただし毒素の作用ではない)に続き、めまいや視力低下などを起こし、その後自律神経障害や四肢麻痺、最終的には死に至ることもあります。

このように、ボツリヌストキシンは致死的な症状になることもあるため、ただの食中毒と侮れません。余談ではありますが、この筋肉弛緩作用を逆手に利用し、ボツリヌストキシンを注射で皮膚に注入することで、シワをなくす治療にも使われています。だたし、これは口に入れるのではなく皮膚に直接打ち込みシワ部分の硬い筋肉を弛緩するため、やはり食中毒という毒としての面をきちんと理解することが大事となります。

糖がボツリヌストキシンを速く検出することに貢献した!!

 

食中毒を防ぐためには、きちんと検査によって検出すること、それもなるべく速く検出することが大事になります。元々、ボツリヌストキシンの本体の検出には1~4日を要しましたが、2006年に新手法が開発されたことでかなり改善されました。警察庁と産業技術総合研究所との共同開発の成果で、何と10分で検出できるようになったのです。この革命を起こしたのが、糖です。糖とボツリヌストキシンを結合させた後にレーザーで検出するという方法で検査が円滑に進んだことを考えると、糖が救世主になったと言えます。こうした分野でも糖は活躍しています。ぜひ覚えておいてください。

【ライター紹介】

宮川 隆 (みやがわ りゅう)

名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門  助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれており、近年は全日本情報学習振興協会にて講師としてYouTube動画の配信も行っている。
【全日本情報学習振興協会YouTube】
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