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西三河の名菓、桃の節句のお菓子「いがまんじゅう」とは


3月3日の桃の節句には、女の子の健やかな成長を願って料理やお菓子を用意します。桃の節句のお菓子といえば、ひなあられや菱餅を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実は、地方独自の風習で桃の節句に食べられているお菓子もあります。今回は、愛知県の西三河地方の郷土菓子である「いがまんじゅう」をご紹介します。

西三河地方に伝わる「いがまんじゅう」とは

愛知県の中央を縦断するように位置している西三河地方。徳川家康の生誕の地である岡崎市、自動車産業で有名な豊田市などを含む地域です。

西三河地方に伝わるいがまんじゅうは、米粉から作られた餅で小豆餡を包み、上部に三色のもち米を隙間なくつけたお菓子です。小豆餡を生地で包んでから蒸し器で蒸し、もち米をつけてから再び蒸して作られます。桃の節句だけでなく、田植えの時期の豊作祈願のお供えものにすることもあります。※1※2

実は、全国各地でいがまんじゅうは食べられており、「いが餅」のように別の名称で呼んでいる地域もあります。各地で食べられているいがまんじゅうですが、桃の節句であるひな祭りに食べるのは西三河地方独自の風習です。※3※4

西三河地方では、桃の節句が近づくといがまんじゅうを手作りしていましたが、現在では、和菓子店やスーパーマーケットで購入することが一般的なようです。また、学校給食でも桃の節句にはいがまんじゅうが提供される地域もあり、西三河地方の風習として定着しています。※1※2

桃の節句は地域によって用意される独自のお菓子があります。ひな祭りのお供え物についてはこちらで紹介しています。
お内裏様とお雛様の関係は? 飾る位置は? 桃の節句とお供え物トリビア

「いがまんじゅう」と呼ばれる由来


いがまんじゅうと呼ばれるようになった由来には、複数の説が伝わっています。上部につけたもち米の見た目が「栗のいが」に似ているという説、もち米を「稲の花(いが)」に見立てて豊作祈願とした説、蒸したときに漂う「飯の香(いいのか)」からつけられた説です。※1※5

そのほかには、地名の「伊賀」を由来とする説もあります。いがまんじゅうが西三河地方に伝わったのが、伊賀忍者で知られる三重県伊賀市からだったとの説。もしくは、本能寺の変が起こった際、大阪府の堺にいた徳川家康が本拠地である岡崎城へ向かう道すがら、三重県の伊賀を越えて無事に帰ったことにちなんでつけられたとの説もあります。また、岡崎市にある伊賀町からつけられた説もあり、はっきりとした由来は不明です。※1※5

三色に着色された色の意味

いがまんじゅうには着色されたもち米がつけられていますが、どのような意味があるのでしょうか。表面につけたもち米は、西三河地方ではピンク・黄・緑の三色に色づけされています。春を感じさせる鮮やかな色合いで、思わず目に留まるほど華やかです。※1※2

三色には意味があり、ピンクは「桃の花・魔除け」を、黄は「菜の花・豊作祈願」を、緑は「新芽・生命力」を意味しているといわれています。西三河地方で桃の節句にいがまんじゅうを食べるようになった理由は不明ですが、この色鮮やかさから定着したのではないかとも考えられています。※1

和菓子店によってはもち米に色はつけず、小豆餡を包む餅に色をつけているものもあり、西三河地方でもさまざまないがまんじゅうが見られるでしょう。また、全国各地では、行事によってもち米の色を分けている地域もあります。※6※7

なお、全国各地のいがまんじゅうは、上部のもち米のつけ方が異なるのが特徴です。西三河地方のいがまんじゅうと同様に上面にびっしりと隙間なくつけられているもの、中心部のみにつけてあるもの、パラパラと散らしてあるもの、側面から上面の片側だけにつけてあるものなどがあります。もち米のつけ方で地域の独自性があるのも面白いものです。※5※7

西三河地方以外で食べられている「いがまんじゅう」

©OKAMEDOU(https://okamedo.jp/

西三河地方で食べられているいがまんじゅうとは姿かたちが異なるのに、名前が同じお菓子が埼玉県にあります。埼玉県に伝わるいがまんじゅうは、小豆餡を包んだふかしたまんじゅうを赤飯で包んだものです。埼玉県鴻巣市が発祥だと伝わっており、羽生市、加須市などを含めた北東部で昔から食べられてきました。※8※9

餅ではなく、小麦から作られたふかふかとした皮のまんじゅうを、さらに赤飯で包んでいるため、ボリュームもたっぷり。甘味とほのかな塩気がほど良く、赤飯のもっちりとした食感と皮のバランスが良いお菓子です。夏祭りやお祝いごとのごちそうとして親しまれています。※8※9

埼玉県の北東部では小麦粉の生産が盛んであり、もち米が貴重なものでした。そこで、お祭りや年中行事など特別な日の料理に使うもち米を少なくするために、いがまんじゅうが作られたといわれています。また、調理の手間を省くために、赤飯とまんじゅうを同時に作ったともいわれています。※8※9

埼玉県で作られているいがまんじゅうの名前の由来は、まんじゅうを包む赤飯が「栗のいが」に似ていることからとの説が伝わっています。これは、西三河地方に伝わるいがまんじゅうの説の一つと同じです。使われている材料は違っても、名前の由来に共通点があることに思わず膝を打ちたくなりますね。※8※9

西三河地方でいがまんじゅうが店頭に並ぶと、春の訪れを感じるといわれています。全国各地で同じお菓子が作られていますが、いがまんじゅうを桃の節句に食べるのは西三河地方の独自の風習です。春に西三河地方を訪れた際には、いがまんじゅうを手に取ってみてはいかがでしょうか。

<参考>
※1 愛知県 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/igamanju_aichi.html
※2 食育ネットあいち
https://www.pref.aichi.jp/shokuiku/shokuikunet/mind/recipe/recipe046.html
※3 事典 和菓子の世界 中山圭子
※4 47都道府県・和菓子/郷土菓子百科 亀井千歩子
※5 「毬もち」の考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/37/4/37_429/_article/-char/ja/
※6 春限定!「いがまんじゅう」特集!
https://okazaki-kanko.jp/feature/igamanju/top
※7 滋賀県湖東地域における “毬もち”
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh1994/10/1/10_1_79/_article/-char/ja/
※8 いがまんじゅう
https://www.pref.saitama.lg.jp/b0907/kitasaitama-densyoryouri/igaman.html
※9 いがまんじゅう
http://www.city.kounosu.saitama.jp/kanko/tokusan/1/1455525780164.html