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端午の節句におこわ。尾張に伝わる黄飯のおこわとは


尾頭付きの鯛やおすし、お餅など、日本ではハレの日に合わせた食べ物を用意してお祝いをする風習があります。男の子の成長を願う端午の節句には、ちまきや柏餅を用意するご家庭も多いのではないでしょうか。一方で、地域独自の食べ物も伝統として残っています。今回は、端午の節句に食べられてきた愛知県尾張地方に伝わる黄色のおこわをご紹介します。

黄色のおこわは尾張地方の節句料理


尾張地方で食べられてきた黄色のおこわは、「黄いないおこわ」や「黄飯(きめし、きいはん)」と呼ばれていて、黒豆とともに炊かれているのが特徴です。黄いないおこわの「黄いない」とは名古屋弁で「黄色」を表しています。※1※2

おこわの黄色は、クチナシの実の色です。黄いないおこわは、クチナシの実とともにもち米を浸水することで黄色に着色します。※1※2

黄いないおこわに使われる材料は、もち米、黒豆、クチナシの実のみ。お好みで塩やゴマを振りかけます。もちもちとしたおこわとふっくらとした黒豆は相性が良く、独特の食感でもち米のほんのりとした甘味が引き立ちます。※1※2

端午の節句が近づくと、尾張地方の和菓子店などには黄いないおこわが並びます。男児が誕生した家庭では、初節句のお祝い返しとして黄ないおこわを配る風習もあります。※1※2

黄色に込められた意味

なぜ、おこわを黄色に着色するのでしょうか。それは、黄色が「邪気を払う」とされる色だからです。また、黒豆には健康祈願の意味が込められています。端午の節句に黄いないおこわを食べることで、男児が健やかに成長するように願うのです。※1※2

また、端午の節句には兜やこいのぼりを飾り、菖蒲湯に入る風習が現在も残っています。このような風習は武家社会で生まれたものもあり、誕生した男児が健康で、社会的にも良い地位につけるようにとの願いが込められているのです。※3

これと同じく柏餅を食べる風習にも意味があります。柏の木は、新芽が出る前に古い葉を落とさないことから「跡継ぎが途絶えない」との意味があり、縁起をかついだとされています。なお、端午の節句にちまきを食べるのは、中国から伝わった風習です。※3

以上のように、端午の節句にまつわる風習は縁起をかついだものが多くみられます。黄いないおこわも、誕生した男児への願いを込めて食べられているのです。

黄いないおこわが食べられるようになった理由


お祝いの日に用意するおこわといえば、赤飯を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。赤飯は、もち米、小豆やささげ(大角豆)を材料にし、それらを煮た赤色が染み出した煮汁を用いて作られます。※4

日本では古くから、赤色には邪気を払う力があると考えられていました。昔は炊き上げると赤くなる「赤米」を神様へのお供えにしていた風習もあったといわれています。赤飯は邪気を払う意味から、お祝いの席で食べられるようになりました。※4※5

赤飯のルーツとなる食べ物は平安時代にはあったと考えられ、江戸時代になってから一般に広まったと考えられています。赤飯は全国で食べられているハレの日の料理です。※4

昔は、小豆やささげが手に入りにくい時代がありました。赤飯の代わりにクチナシの実で着色した黄いないおこわが尾張地方で食べられるようになったのは、当時のこうした事情も関わっているとの説が伝わっています。庭先や畑にクチナシを植えている家庭もあり、クチナシの実が手に入りやすかったことも関係しているようです。※1※2

尾張地方以外でも食べられている黄色のおこわ

クチナシの実で着色された同様の黄色のおこわは尾張地方だけでなく大分県や静岡県でも食べられています。しかし、これは尾張地方のように端午の節句の行事食として伝わったものではありません。

大分県では黄色のおこわを「黄飯(おうはん)」と呼び、黒豆は使われません。大分県で黄飯が食べられるようになったのは戦国時代です。かつて大友宗麟(おおともそうりん)が治めていた臼杵(うすき)藩が財政難に陥り、当時は貴重な食材であった小豆やささげの代わりにクチナシの実を用いて作られたのが始まりだといわれています。また、南蛮貿易が盛んに行われていたことから、スペインのパエリアに影響を受けたとも考えられています。※6

余談ですが、大分県で黄飯は、「かやく」と呼ばれる白身魚や野菜と豆腐などを煮こんだおかずとセットで食べられてきましたが、いつしか風習として黄飯を食べることが少なくなり、セットになっている「かやく」が「黄飯」と呼ばれ、親しまれていったといわれています。※6

静岡県では戦国時代に、黄色のおこわを小判型などに薄く広げて乾燥させた「染飯(そめいい)」が食べられてきました。クチナシの実は漢方薬として、足腰の疲れに効くと信じられていたそうです。染飯は、東海道沿いの茶屋で売られ、旅人から人気を博したといわれています。現在では、静岡県藤枝市の名物として、当時の染飯をアレンジした黄色いおこわのおにぎりが作られています。※8

尾張地方で端午の節句に食べられてきた黄いないおこわは、赤飯の材料である小豆やささげの代わりにクチナシの実を用いて作られ始めたといわれています。黄色には赤飯の赤い色と同じく邪気を払うという意味があり、男児の健康を願って食べられるようになりました。華やかな色合いの黄色のおこわは、ハレの日の食卓を彩ります。

 

<参考>
※1:あいちの郷土料理 レシピ50選 愛知県農林水産部食育推進課

※2:愛知県 黄いないおこわ
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kiinaiokowa_aichi.html

※3:子供を祝う端午の節句と雛祭 是澤博昭著

※4:お赤飯について
http://www.osekihan.jp/history.html

※5:和食
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/attach/pdf/index-90.pdf

※6:黄飯と黄飯かやく
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ohantoohankayaku_oita.html

※7:臼杵市~郷土料理 黄飯(おうはん)~
https://www.oita-shoku.jp/shoku.php?shoku=1&no=38

※8:瀬戸の染飯レシピ集
https://www.city.fujieda.shizuoka.jp/material/files/group/97/someiireshipi.pdf