ういろうは全国各地で食べられている伝統的な和菓子です。住んでいる地域によって思い浮かべるういろうがあるのではないでしょうか。ういろうは漢字で「外郎」と表記します。ういろうと呼ばれるようになった由来には、薬と深い関わりがありました。和菓子のういろうの語源に迫ります。
古くから親しまれてきたういろう
ういろうは米粉などに砂糖と水を混ぜて蒸しあげた和菓子です。ようかんのような細い棒状にした棹物(さおもの)がよく知られています。ういろうが作られ始めた時期は諸説あり、はっきりとしていません。1712年に作られた百科事典の「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」には外郎餅の製法が記載されており、江戸時代には広く食べられていたことがわかります。※1※2※3
1802~1822年にかけて作られた、十返舎一九作の「東海道中膝栗毛」という滑稽本にもういろうが登場します。主人公の弥次郎兵衛(弥次さん)と喜多八(喜多さん)が、東海道を江戸から旅をする物語中に小田原を訪れ、名物のういろうを購入しますが、口にしたのは和菓子ではなく薬であり、その苦さに顔をしかめたのです。
なぜ、弥次さん喜多さんは、和菓子のういろうと薬を間違えたのでしょうか。ういろうの語源には薬が深く関わっています。小田原では同名の薬が販売されていて、薬と和菓子のういろうが名物だったのです。※1※2
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薬と深い関わりがあるういろうの語源
和菓子のういろうは、もともと薬から名前をとったと伝わっています。まず、薬の名前から由来を見ていきましょう。
薬の名前には中国の陳氏という人が関わっています。陳氏は中国が元の時代、「礼部員外郎(れいぶいんがいろう)」という役職についていました。陳氏は元が滅びると日本に渡ります。日本では元で携わっていた役職を家名とし、なおかつ読み方を変えて「外郎(ういろう)」と名乗りました。
外郎家は代々医療職を営み、薬を作って売り歩いていたといわれています。その当時、よく売れた薬に「透頂香(とうちんこう)」がありました。頭痛や咳、腹痛などに効いたとされ、まだ医療が発達していなかった時代ということもあり、重宝されたといわれています。
看板薬でもあったこの「透頂香」は、外郎家が作っていたことから、正式な薬の名前ではなく「外郎」とも呼ばれ、広く知られるようになるのです。そして、和菓子のういろうは色合いが「透頂香」に似ていたため、ういろうと呼ばれるようになったとの説が伝わっています。このように、和菓子のういろうを漢字で「外郎」と表記するのは、薬を販売していた外郎家が由来となっているのです。※1※2※3※4
同じようで違いがある日本3大ういろう
お土産物としてのういろうといえば、名古屋のものを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、ういろうは全国各地で作られています。そして、数ある中でも日本3大ういろうと称されるのが、「名古屋ういろう」「山口ういろう」「阿波ういろう」です。※5
ういろうの製法はシンプルですが、同じようで違いがあります。名古屋ういろうは米粉と砂糖が主原料で、重量感ともっちりとした食感が特徴です。名古屋駅ではたくさんのういろうが販売されているので、定番の棹物以外にフォトジェニックなデザイン性の高い製品も見つけることができるでしょう。
山口ういろうはわらび粉を使用しており、弾力のあるもちもちとした食感と、なめらかな舌触りが特徴です。地元の人たちによれば山口ういろうの食感は「おっとり」。独自の表現で親しまれています。山口ういろうは室町時代から食べられていたという説もあります。※6
阿波ういろうは、阿波和三盆や砂糖、塩を混ぜて生餡に加え、上新粉や餅粉を加えたもの。もちもちした食感と、小豆の素朴な味わいが特徴です。江戸時代、徳島にサトウキビが伝わり、和三盆糖の製造が始まったことをきっかけに、ういろうが作られました。その後、徳島では阿波ういろう作りが始まったとされる旧暦の3月3日に、阿波ういろうを食べる習慣があります。※5
ういろうのように地域ごとにさまざまな違いのある和菓子は他にもあります。
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棹菓子だけじゃない!季節を彩るういろう
ういろうは細長い棹物や手の平に収まるサイズの直方体で個包装されているものが定番です。しかし、ういろうを使った和菓子は棹物だけではありません。ういろうの生地で餡を包み、季節の花などをかたどった上生菓子などにも使われます。
また、棹物や上生菓子以外で有名なういろうといえば、京都発祥の水無月ではないでしょうか。水無月はういろうの上に小豆をのせ、三角形に切り分けた和菓子です。この形は氷を模したもので、小豆は穢(けが)れを払う意味があるといわれています。
京都では6月30日に「夏越の祓(なごしのはらえ)」と呼ばれる神事が行われます。1年の折り返しの日に1~6月の穢れを払い、残りの半年を無病息災で過ごせるようにと水無月を食べるのです。現在、水無月は全国的に知られるようになり、京都以外の和菓子店が取り扱っていることもあります。※7
薬の名前が語源となったういろう。もともとは、中国人の陳氏が役職名の読み方を変えて家名としたのが由来です。ういろうは全国各地で作られており、名物菓子として販売している地域も数多くあります。また、ういろうは棹物だけでなく、上生菓子の材料としても使われており、季節を感じる和菓子のひとつでもあるのです。
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<参考>
※1 事典 和菓子の世界 中山圭子著
※2 食べ物起源事典 岡田哲編
※3 中・近世における外郎(ういろう)家と売薬・透頂香(とうちんこう)の展開に関する薬史学的研究
https://ci.nii.ac.jp/naid/500000143456
※4 ファルマシア・53巻・9号・906頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/9/53_906/_pdf/-char/ja
※5 阿波ういろう
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/44_7_tokushima.html
※6 外郎(ういろう)
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/43_25_yamaguchi.html
※7 水無月
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/minazuki_kyoto.html