飽食の時代ともいわれる現代において、大概の食物が容易に手に入るようになりました。大半の方は、食べられなくてひもじいということはないものと思います。
そんな中でも、気が付かないうちに栄養失調に陥っている場合があることがわかっています。
今回はこのような現象を一緒にみていきましょう。
人類は長いこと栄養失調だった?!
人類誕生からの歴史を振り返ってみると、そもそも古代においては、人類は常に栄養失調状態だったといわれています。狩りをして獲物を獲っていた時代では、毎日獲物が獲れることは少なく、むしろ獲物が獲れないことの方が多かったようです。
そのような状況でも生きていけるよう、遺伝子レベルでは栄養が足りてない状態でもある程度生きていけるようになっています。どちらかというと、飢餓状態に慣れているという意味にもなります。
裏を返すと、食べ過ぎると容易に栄養過多になってしまうということです。
その証拠に、飽食の時代において生活習慣病が増えました。ただし、飢餓状態である程度生きていけるというだけの話で、実際には寿命自体は短かったという現実があります。
つまり、飢餓状態が長く続けば栄養失調で死んでしまうということです。
日本人の中で栄養失調が叫ばれた時代とは??
日本人の多くが栄養失調に陥った時代もあります。
それは第二次世界大戦中とその後のしばらくの間です。戦時中、戦況が厳しくなってきてから敗戦後まで食料不足が起こり、満足に食料が手に入らなくなり、その結果、多くの人が栄養失調に陥りました。
ただし、その後は経済復興や欧米型の食生活の導入などによって、栄養失調どころか、むしろ飽食の時代となり、どうせ栄養を摂取するなら美味しいものからという潮流からグルメブームが起き、栄養失調という言葉自体が過去の遺産と呼ばれるまでに至っています。
もちろん、今の時代においても、貧困のせいで栄養失調になっている方もいる点は無視できないことではあるものの、一般的には栄養失調という概念は意識されなくなってきているのは事実です。
しっかりと食べているのに栄養失調に?!
現代人の間で問題になっているのは、「毎日しっかりと食べているのにもかかわらず、栄養失調になってしまっている」という状態です。
自分ではきちんと食べていると思っているものの、実際には栄養失調になってしまっている方が意外と多いと考えられています。このような栄養失調のことを「新型栄養失調」と呼んでいます。
これが厄介な点としては、健常な若者であっても陥る可能性があるという点です。実際に、幅広い世代で、また肥満体型から痩せ型体型の方に至るまであらゆる体型の方で増えているといわれています。
栄養失調の初期症状についてはこちらもご覧ください。
・栄養失調の初期症状とその対策法とは?!
新型栄養失調の原因とは??
新型栄養失調の原因として考えられているのは、「偏食による栄養素の極端な偏り」です。
もちろん、一口に偏食とはいっても、年代や性別などによって色々な背景がありますので、原因を完璧に特定するのは容易ではないですが、日本人の場合には、タンパク質、ビタミン、ミネラルの3つが特に足りていないことが多いので、この3つの栄養素の不足の観点でみてみると理解しやすいかと思います。
例えば、若い女性の場合には、食事制限によるダイエットのために全体的に栄養不足になりがちです。特に、肉などを控えて野菜ばかり食べる結果、極度のタンパク質不足に陥りがちです。
また、働きざかり男性の場合では、仕事の合間に食事をさっと取らなければいけないことが多く、手軽にカロリーがとれるインスタント食品やおにぎりだけですます方も少なくないです。この場合には、たとえカロリーは十分であっても、野菜不足によるビタミンやミネラル不足が進んでしまうということがあります。
高齢者の場合もみてみると、歯や胃腸の弱りから、やわらかいものやさっぱりしたものばかりを食べる傾向があり、肉や魚などのタンパク質が不足してしまう方が多いです。
このように、どの年代・性別であっても新型栄養失調は起こりうるということが再度実感できると思います。
それぞれの栄養素が不足した場合に見られる症状と対策とは??
タンパク質は身体を作る構成要素として最も大事な栄養素であるため、不足するということは多方面に影響を及ぼします。
例えば、基礎代謝の低下、痩せにくくなる、疲れやすくなる、脱毛、集中力の低下などになります。きちんと毎日食事を十分量とれているのに、前述した気になる症状がある場合には新型栄養失調を少し疑ってみてもよいでしょう。
また、ビタミンやミネラルが不足した場合には、各々が関わっている生理機能に影響が出てきます。
例えば、ビタミン類が不足すると肌荒れになりやすくなる、鉄が不足すると貧血でめまいなどを感じやすくなる、カリウムが不足するとむくみやすくなる、などです。食生活自体を改善していくことが有効ではありますが、なかなかすぐに改善が難しいという場合には、補助的にタンパク質の素となるアミノ酸、ビタミンやミネラルが含有されたサプリメントなどを上手に活用することも考えましょう。
例えば、昼ごはんをうどんだけですませてしまった場合、食後にサプリメントで補うことは大変有効な手段と言えます。
ただし、食事自体を抜いてサプリメントだけで補うというのはおすすめしません。サプリメントはあくまで補助的なもので、食事にプラスできるように作られているものが多いからです。ぜひ賢く栄養摂取を試みてください。
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【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師、理学博士のほか10種類くらいの資格を持つ。
現在は、東京大学医学部附属病院 放射線科 核医学部門 助教&「放射性医薬品の管理責任者」、環境省「原子力災害影響調査等事業」メンバー、日本アイソトープ協会 放射線取扱主任者講習・作業環境測定士講習講師、リクルートメディカルキャリアコラム執筆など本業の合間に、わかりやすくサイエンスを伝える活動に力をいれており、近年は全日本情報学習振興協会にて講師としてYouTube動画の配信も行っている。
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