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幸せとは、ウェルビーイングで心と体のバランスを考えよう



あなたは幸せを感じることはできていますか? 先進国の中で幸福度が一番低いと言われている日本ですが、近年ウェルビーイングが注目されています。肉体的、精神的、社会的に満たされた状態が健康とされるウェルビーイングの考え方を見てみましょう。

ウェルビーイング(Well-being)とは 身体的、精神的に良好な状態

ウェルビーイングという単語が初めて言葉として登場したのは、1946年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章です。設立者の一人である施思明(スーミン・スー)の提案によるものでした。では、ウェルビーイングとは何でしょうか。英和辞典で引いてみると「健康」「幸福」「福利」「よいあり方」とあります。WHOの憲章における「(広い意味での)健康の定義」の中で使われている単語です。すなわち「健康とは、単に疾病や病弱な状態ではないということではなく、身体的、精神的、そして社会的に完全に良好ですべてが満たされた状態である」と定義づけられる中の、「満たされた状態」と訳されているのがwell-beingという英単語です。「ウェル」と「ビーイング」ですから、直訳すると「良好な状態」なのですが、最近は「満たされた状態」と訳されることが多いようです。
このように「健康」「幸せ」「福利」を包含する概念であるウェルビーイングですが、最近の日本では、「幸せ」に近い意味で使われることが増えたように思います。これには、二つの理由があると考えられます。
一つ目は、心理学研究の進展。学問的には、subjective well-being(主観的幸福)研究という分野があり、どのような人が幸せなのかについて、さまざまな研究が行われてきました。その結果、主体的な人は幸せ、自己肯定感の高い人は幸せ、感謝する人は幸せ、利他的な人は幸せ、ポジティブな人は幸せ、チャレンジする人は幸せ、視野の広い人は幸せ、人と自分を比較しない人は幸せなど、さまざまなことがわかってきています。このことが、ウェルビーイング(幸せ)について語られる機会の増加につながっていると言えるでしょう。
もうひとつは、社会の変化です。モノの豊かさよりも心の豊かさを求める人の方が多いと言われるようになって久しいですし、環境問題や少子高齢化問題を考えると右肩上がりの成長は望めない現代社会において、ウェルビーイング(健康・幸せ)な状態で暮らすことを目指す人が増えているということが言えるでしょう。これら二つの理由により、身体的、精神的に良好な状態に注目する人が増えているのです。
ちなみに、SDGsの3番目は、Good health and well-being。日本語では、すべての人に健康と福祉を。ここでは、ウェルビーイングは健康・福祉に近いニュアンスで用いられています。このように、健康・幸せ・福祉という広い意味で使われる単語と言えるでしょう。

心身のバランスを整えることは、コロナ禍・ストレス社会でのWell-beingのために大切

仏教には「心身一如」という言葉があります。心と体は一つであり切り離せない、という意味です。実際、ウェルビーイングの研究によると、幸せな人は健康であり、健康な人は幸せであることが知られています。幸せだと中枢神経系、自律神経系、免疫系の働きにも好影響があることも知られています。また、幸せな人は不幸な人よりも7~10年ほど長寿であるという研究結果もあります。口角を上げて笑顔を作ったり、姿勢を正したり、上を向いて大股で歩くと、幸福度が高まることも知られています。つまり、体の良い状態が心の良い状態を作ることが知られていますし、逆に、心の良い状態が体の良い状態を作るともいえます。つまり、心身のバランスを整えることが重要なのです。
特に、コロナ禍にあって、幸福度の高まっている人と下がっている人がいることが確認されています。通勤時間が減った分、家族との会話や自然と触れ合う時間が増えたという人がいる一方で、家族は喧嘩ばかりとか、一人暮らしで孤独感を感じるなど、ストレスを感じている人もいるようなのです。このため、コロナ禍においては、これまで以上に健康と幸せに気を配ることが重要だと言えるでしょう。
 では、どのようにしてウェルビーイングを整えればいいのでしょうか。すでに述べたように笑顔になることは幸福度と免疫力を高めます。胸を張った良い姿勢でいることや、上を向いて大股で歩くことも幸福度を高めます。自然に触れることやリラクゼーションもいいでしょう。さらには、前に述べたように、主体的であること、自己肯定感を高く保つこと、感謝すること、利他的な行為を行うこと、ポジティブな態度で過ごすこと、チャレンジすること、視野を広く保つこと、人と自分を比較しないことなど、さまざまな行動が、ウェルビーイングに影響します。皆さんもぜひ、できることから、ウェルビーイングを高めてみませんか。

 

参考著書

ウェルビーング


著者
前野 隆司 (マエノ タカシ)
前野 マドカ (マエノ マドカ)

 

発行元
日本経済新聞出版

発行日
2022年3月23日

定価
990円(税込)

 

 





新型コロナウィルスの大流行もあって、人々はこれまで積み上げてきた価値観や消費行動、思考に抜本的な見直しを迫られています。既存の枠組みによる経済成長だけでは推し量ることができないウェルビーイング(well-being)な社会の実現が、日本にとどまらず国際社会全体の喫緊の課題になっています。
 ウェルビーイングとは、人が身体的・精神的・社会的に“良好な状態”であることを指す概念です。それは昇進や結婚などのイベントによって一時的に得られる幸せや、あるいは日本国憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活」ができていることを指すのではありません。人生の満足度だけでなく、幸せを生み出している複合的な要素を組み合わせ、一時の感情に左右されない「持続的幸福度」を指標にしていこうと考え出されたものなのです。
 そのなかで日本は、客観的なウェルビーイングの指標の一つであるGDPは右肩上がりに上昇し、世界第3位を堅持していますが、国連の発表するアンケート調査に基づいた世界幸福度ランキングでは146国中54位と、世界各国と比較しても客観的地位と主観的地位の差が目立つ国です。※
 本書は、このように取り組みが必要とされているにもかかわらずイメージがつかみにくいウェルビーイングについて、働く人、部下を持つ人、経営者に向けて平易に解説するものです。

https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPD@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD/RUS
https://worldhappiness.report/ed/2022/


ライタープロフィール


慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
兼 慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長
前野隆司(まえのたかし)
 


1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。著書に、『ディストピア禍の新・幸福論』(2022年)、『ウェルビーイング』(2022年)、『幸せな職場の経営学』(2019年)、『幸せのメカニズム』(2013年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。