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アダプトゲンってなに?慢性的なストレス適応力を高めよう

ストレス社会の現代、多くの人が日々ストレスを抱えながら過ごしています。慢性的なストレスは知らないうちに身体に症状が出てきます。眠れない、やる気が出ない、疲労が取れない、体がだるいなどでお困りの方は多いのではないでしょうか。心と体をリラックスさせる働きがあるアダプトゲンをご紹介します。

アダプトゲンとは

アダプトゲン(adaptogen)は、1947年にソビエト連邦の科学者ニコライ・ラザレフ博士によって発表された比較的新しい言葉です。ラザレフは戦争中にコカインなどの向精神薬の検査に携わり、これらの長期使用が依存症やうつ病などにつながることから、長期使用でも悪影響なく健康に貢献するものを探し始め、アダプトゲンにたどりつきました。その後、本格的な研究が進み、1968年にはソビエト連邦の薬理学者イスラエル・ブレクマン博士らによって次のように定義づけられました。

1. 服用者にとって無毒であるもの(副作用があっても最小限)
2. 体内で非特異的耐性すなわち、物理的、化学的、生物学的な様々なストレス要因に対する耐性を増加させるもの
3. ストレス要因によって生理機能が基準値から外れてもそれを生理学的に正常化させるもの

これらの定義に当てはまるものには、ストレス・不安・倦怠感の緩和や、免疫系・内分泌系の活性・正常化、活力増進、滋養強壮、抗酸化、抗うつなどの働きがあるとして注目されています。そのようなアダプトゲンとされるものには、オタネニンジン、エゾウコギ、ロディオラ・ロセア、アマチャヅル、ホーリーバジル、カンゾウ(リコリス)、マカ、チョウセンゴミシ、アシュワガンダ、トウジン、イボツヅラフジなどの植物のほか、レイシやチャーガ(カバノアタナケ)、冬虫夏草といった菌類や、シラジットと呼ばれるヒマラヤ山脈から採れる腐植土と植物性有機物の混合物などがあり、いずれも、アーユルヴェーダや中医学などで古代から伝統的に利用されてきたものです。
 アダプトゲンを生活の中で取り入れるには、食事などで摂取するのがベストですが、フレッシュなものや種苗を入手しにくいものも多いため、ドライの煎剤(ハーブティー)やサプリメントなどで摂取するのが一般的です。アダプトゲンに限らず過剰摂取にならないよう上手に取り入れることが大切です。サプリメントやお茶で利用する場合には、医薬品との相互作用について、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

アダプトゲンとされるもののうち、3種類をご紹介します。


ロディオラ・ロセア Rhodiola rosea L.

北半球の高山や亜寒帯地域に分布し、日本にはアルプスなどの高山や北海道に自生するベンケイソウ科の常緑多年生多肉植物です。名称にはロデオラやロゼアなどの表記の揺れが見られます。和名はイワベンケイ(岩弁慶)で、ベンケイソウ科植物は多肉で乾燥に耐える特徴があり、本種が岩場でよく見られることに由来します。一方、英名はrose rootやgolden rootなどで、根にゲラニオールなどの精油を含有してバラの香りのすることによります。草丈30cm程度、雌雄異株で、夏に開花し、雌株は秋に赤い果実を着けます。葉をサラダや調理して食べたり、ウォッカのフレーバーに用いたりするほか、伝統医療でストレスや不安、倦怠感、うつ症状の緩和、高山病予防などで用いられてきました。近年、アダプトゲンとして注目され、ロサビン、ロジン、ロサリン、サリドロシドなどの固有成分や、抗酸化作用や抗癌作用を有するフェノール物質を含有することが明らかになっていますが、これらの役割に関する科学的証明はまだ十分ではなく、現在、研究が進められているところです。

エゾウコギ(蝦夷五加木、蝦夷五加) Eleutherococcus senticosus (Rupr. & Maxim.) Maxim.

東アジアの亜寒帯原産で、日本には北海道東部の十勝、網走支庁内の林地に自生するウコギ科の植物です。学名にはAcanthopanax senticosus (Rupr. & Maxim.) Harmsのシノニム(異名)もよく見かけます。効能が別属植物のオタネニンジンと似ていることからシベリアニンジンとも呼ばれます。英名はeleutheroやSiberian eleutheroです。樹高2~6 mの落葉低木で、木化した茎が細い棘で密に覆われる特徴があります。エレウテロサイドEとB、プロトカテク酸、クロロゲン酸、ロスマリン酸などを含有します。旧ソビエト連邦では、アダプトゲンとして真っ先に研究され、1960年頃に疲労回復や抵抗力増強などが確認され、1962年には強壮剤として医薬品承認されました。1966年には宇宙飛行士が利用、1980年のモスクワ五輪では選手強化に利用されたことから注目されるようになりました。現在、欧州医薬品庁(EMA)では倦怠感や脱力感などの無力症の治療に推奨されています。日本では2006年の薬局方改正で「シゴカ(刺五加)」の名で収載され、現在ではサプリメントや、ドライにした茎葉(特に樹皮)を煎剤としたり、蒸留酒に根を漬けて薬用酒としたりするほか、果実を果実酒にしたり、新芽を山菜として利用したりします。

アマチャヅル(甘茶蔓、絞股藍)Gynostemma pentaphyllum (Thunb.) Makino

東アジア~南アジアに分布し、日本には全国各地に自生するウリ科の植物です。英名は中国名からjiaogulanといいます。草丈3~5 mに達するつる性の落葉多年草で、雌雄異株、夏に開花し、雌株は秋に黒熟する小さな液果を着けます。名称は葉を煎じると甘みのあるお茶になることに由来します。伝統的に、茎葉を乾燥させて、鎮静、ストレス緩和、滋養強壮、咳止め、肩こり解消などに、健康茶として飲んだり、焼酎に漬けて薬用酒としたりされています。サポニンを含有するため苦味もあり、山形などでは全草を乾燥させて洗剤として利用してきました。1980年代にはアマチャヅル茶がブームとなり、アジサイの仲間の甘茶との混乱も見られました。オタネニンジン(ジンセン)にも含まれるサポニンの一種ジンセノサイドを含有し、アダプトゲンとして注目されています。


ライタープロフィール

特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会 理事・事務局長
木村正典(きむらまさのり) 

北海道安平町早来出身。 博士(農学)。 (株)グリーン・ワイズ。NHK趣味の園芸「やさいの時間」講師。元東京農業大学准教授。専門は人間・植物関係学、蔬菜園芸学、アーバンホーティカルチャー(都市園芸学)、サステイナブルホーティカルチャー(持続型園芸)、ハーブなど。ハーブの精油分泌組織や精油含量と環境要因・栽培技術との関係のほか、家庭菜園やコミュニティガーデン、屋上緑化などにおける園芸の役割に関する研究に長く携わる。近年は、生態系を大切にした都市型菜園技術の開発・普及や、園芸による自然とつながる豊かな暮らしと社会づくりの推進、セラピュティックホーティカルチャー(療法的園芸)の普及に取り組む。主な著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)、『園芸学(分担執筆)』(文永堂出版)、『二十四節気の暮らしを味わう 日本の伝統野菜』(GB)、『手間をかけなくても野菜は育つ 木村式 ラクラク家庭菜園』(家の光協会)、『ハーブの教科書(編著)』(草土出版)など、監修に『どんどん育って何度もおいしい はじめてのコンテナ菜園』(ブティック社)、『カルペパーハーブ事典』(パンローリング)、『願いを叶える魔法のハーブ事典』(パンローリング)、『願いを叶える魔法の香り事典』(パンローリング)など。