最近よく聞く血糖値スパイク。誰にでも起こり、自覚症状がなく、健康診断でも気づけない、意外と侮れない現象です。知らないうちに糖尿病にならないよう、正しく理解しましょう。今回は血糖値スパイクになりやすい人、予防方法などをご紹介します。
血糖値スパイクってそもそも何?
陸上競技や野球、サッカーなどの球技を経験した方にとって「スパイク」という言葉は割と身近でしょう。陸上競技では、トラックを走る際に履く専用シューズのことをスパイクシューズと呼びますが、まさにそれを想像するとよいと思います。
スパイクシューズの地面との接地面側には金属のトゲのような突起物がたくさんついています。スパイクとは「先の鋭く尖ったもの」という意味を持ちます。
血糖値は本来、穏やかな波のように増減を繰り返すものですが、この波が鋭く尖ったシャープな形になる場合に注意が必要となってくるわけです。
つまり、食後に急激な高血糖が見られる現象が血糖値スパイクです。血糖値が問題になる疾患としては糖尿病を思い浮かべる方も多いかと思いますが、糖尿病になると普段から常に血糖値が高い状態が続くという点で大きく異なります。
血糖値スパイクが厄介な点としては、老若男女問わず誰でも起こりうるということです。加えて、食後の短時間にだけ起こる現象のため、空腹時に血糖値を測定する通常の健康診断では発見が難しいところが問題点といえます。自覚症状がほとんどないという方も多いので、気が付いたころには糖尿病になってしまっていたという場合もあるため、侮れない現象です。
血糖値スパイクの怖い点とは?
血糖値スパイクを放置することは糖尿病につながるだけでなく、がん、認知症、心筋梗塞などといった社会問題となっているような疾患にもつながると考えられています。多くの生活習慣病の原因として、動脈硬化がありますが、血糖値スパイクが動脈硬化を引き起こすことがわかっています。血糖値の急上昇が起こると、血管壁の細胞から大量の活性酸素が発生し、血管が傷つけられて動脈硬化につながっていくというメカニズムです。
また、本来は血糖値を下げる働きがあるホルモン「インスリン」も関わっていることがわかってきています。生まれつきの体質や乱れた生活習慣などによって、細胞が糖を吸収する能力が低下し、インスリンの働きが弱まってしまい、うまく血糖値を下げることができなくなります。そうなると、膵臓がさらに大量のインスリンを放出するようになり、無理やり糖を細胞に取り込ませようとします。この状態がまさに血糖値スパイクで、この状態で大量に放出されたインスリンによって悪影響が出てくるというわけです。
体内にインスリンが大量に存在している状態だと、脳内に有害な老廃物であるアミロイドベータが蓄積しやすくなることがわかっています。このアミロイドベータはアルツハイマー型認知症の原因物質と考えられているもので、つまり、血糖値スパイク状態では、余ったインスリンによって認知症が促進されていくということになります。また、この余ったインスリンによってがん細胞増殖が促進されるという報告もあるため、血糖値スパイクは厄介なものだといえます。
血糖値スパイクが起こりやすい人って?
血糖値スパイクが起こりやすい人もわかってきています。具体的には、麺類や丼などの炭水化物メインの食事が多い人、お菓子やジュースなどの甘いものをよく食べる人、BMI(Body Mass Indexの略で、体重kg÷身長m÷身長mで計算される)が25以上の人(肥満体型の人)、早食いの人、運動をほとんどしない人などが要注意といえます。当てはまる方はいま一度、生活習慣を見直すことが必要です。
血糖値スパイクと糖質の関係についてはこちらをご参照ください。
・糖質制限と血糖値スパイクの関係について
・炭水化物は本当に悪者なの?
血糖値スパイクの予防方法とは?
血糖値スパイクの予防方法として具体的に見てみると、食べる順番を野菜、肉・魚、ご飯・パン・麺類の順にすること、朝ごはんをきちんと食べること、大食いや早食いを避けること、1回の食事量を減らして回数を多くすること、食後すぐに軽く体を動かすことなどが挙げられます。
ご飯やパン、麺類は、野菜やたんぱく質を合わせて摂ることで血糖値の上昇が緩やかになります。朝ごはんやおすすめのレシピはこちらをご覧ください。
・おすすめ朝食! 朝に食べるといいものとは
・【ビビンバレシピ】おにぎりにしても美味しい!ビビンバ風たたみおにぎりの作り方 適糖おすすめ献立New レシピ
どれもいわれてみると当たり前のことばかりですが、多くの方が意外とできていないのではないでしょうか。また、どの予防方法が適しているかは個人差があります。ご自身に適したものを無理のない範囲で実行すると良いでしょう。
例えば、人によっては1日3回食べるのはつらく、普段から1日1食の生活が合っているという方もいます。そういった方は、それを続けながら、その1食を長い時間をかけてゆっくりと行うということが推奨されます。また、食後に運動といっても、激しい運動は消化中の胃腸の血流を筋肉の方に奪ってしまうことになり、胃腸への負担がかかるためおすすめしません。
血糖値スパイクは大変厄介ではあるものの、日々少し意識するだけで、防ぐことができることができます。ぜひご自身に合った方法から少しずつ試してみてください。
【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師ほか第一種放射線取扱主任者、甲種危険物取扱者、調理師など30以上の資格を保有。
現在は、国立大学法人東京工業大学キャンパスマネジメント本部
放射線安全部門 特任准教授
(国立大学法人東京大学医学部附属病院 届出研究員)
(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 客員研究員)
(公益社団法人日本アイソトープ協会 講師)