以前とは違い飽食の時代と呼ばれる現代においても栄養失調になってしまう方が一定数いらっしゃいます。以前本コラムで紹介した「新型栄養失調」など新しいタイプの栄養失調も存在し、意外と厄介なものです。ただ初期症状をきちんと把握してすぐに対策を講じることで深刻な状況に発展することを防ぐことはできます。
栄養失調に陥る要因を復習してみよう!!
現実的な話をすると、現代の日本において、真の意味での栄養不足の方は少ないと言えます。どちらかというと、栄養過多かつ偏っている栄養バランスによって、結果的に栄養失調になっている方が多いです。
例えば、ビタミンCは一般的には健康に良いとされていますが、それだけを摂ってもあまり意味がないどころか、下痢になるという害も出てきます。ビタミンC単独では吸収が良くなく、ビタミンB群と一緒に摂取するなどが必要になってきます。
つまり、いくら健康に良いと言われるビタミンCだけを摂り続けたとしても、結果的に栄養失調になることもあります。栄養失調に陥りやすい要因としてわかっているのは、過度なダイエットはもちろん、がんなどの病気や加齢によって体のあらゆる機能が低下することなどが指摘されています。
また、認知症によって同じ食材を大量に購入して、そればかりを食べ続けることで栄養失調になるという超高齢社会特有の要因も出てきました。
栄養失調とは社会の鏡なのかもしれません。
栄養失調の初期症状としては何がある??
あんなに太っていた人が数か月でいきなりガリガリになったということを見聞きした方も少なくないでしょう。それで気が付いたらがんが進行していたということもよくあります。
目で見てすぐにわかる栄養失調の初期症状としては、何より不自然にかつ急激にやせ細っていくということが挙げられます。ちなみに、不自然にやせ細るという状態をもっと具体的に説明すると、皮膚が硬くなり、髪の毛が薄くなってきて、骨が目立つようになるなどがあります。自分だけでなく、周りの方でこういう状態になっている方がいらっしゃる場合には、何かしらの原因で栄養失調になっている可能性があります。
ただし、これも以前のコラムで説明したように、元来、人は食べなくても生きていけるように遺伝的にはなっているので、しばらく食べなかったとしてもそんなに急激にやせ細ることはありません。
やはり急激にやせ細るということは栄養失調になっている証拠だとも言えます。詳しくはこちらをご覧ください。
・あなたもなっているかも?! 新型栄養失調とは??
その他にも、初期に見られやすいものとしては、骨折しやすくなる、貧血になりやすくなる、めまいが起こりやすくなる、運動能力の急激な低下、免疫能が下がることで風邪をひきやすくなるなどがあります。
加えて、病院や介護施設などで寝たきりになっている方が栄養失調になると、前述した症状が重なり、床ずれ(褥瘡)になりやすくなります。栄養失調の初期症状と言っても決して侮れないことが理解できると思います。
もちろん、栄養失調の初期症状を見逃してそのまま放置すると、最悪死に至ることだってあります。
対策方法としては何がある??
前述したように初期症状のなるべく早い段階で対処することが必要となります。
なお、がんなど持病があることで栄養失調になってしまった場合には、何よりその持病自体の治療によって完治させることが必要になってきますので、今回紹介するのは一般の方向けという理解でいてください。
また今回紹介するものは初期症状の対策だけでなく、予防にもつながるものですので、栄養失調になりたくないという方にもおすすめです。
まずは日ごろよりバランスの良い食生活を心がけることです。と言っても、例えば仕事が忙しく外食ばかりになる方だと、そう簡単にはいかないでしょう。
よくバランスの良い食生活が大事という一見当たり前のことを見聞きしますが、裏を返せばそれだけ多くの方ができていないということにもなります。
これはそんなに難しく考える必要はなく、ちょっとした工夫で大丈夫です。
例えば、いつも朝はパンをかじるだけとか、昼はおにぎりだけになってしまうという方は、パンにフルーツヨーグルトもプラスする、おにぎりなら鮭やシーチキンなどのタンパク質も一緒に摂れるものを選ぶなど、実は割と手軽にできるものです。
栄養バランスについてはこちらもご覧ください。
・ダイエットにも、新生活の体調管理にも使える! 栄養バランスの良いお弁当づくりのコツ 適糖ライフのススメVol.21
・朝の倦怠感を解消!自律神経を整える朝ごはんとは?
また、そもそも体がいつでも栄養を吸収できるような状態を作っておく必要もあります。そのためには適度な運動をするのが良いです。これも当たり前のことですが、なかなかできていないのではないでしょうか。
現に、大手スポーツジムが始めた、普段着のままでもすぐに運動を開始できるサービスが話題となっていますが、それだけ運動を日ごろきちんとできている方が少ないということが推測できます。
これもちょっとした工夫により可能で、例えば上の階に行くときには階段を常に使うようにする、天気の良い日の通勤を徒歩や自転車などに変えてみるなどで大丈夫です。
そして、一番有効なのはサプリメントを採用することです。日々不足しているなと自覚しているものがあるなら、サプリメントで摂り入れると良いでしょう。ただし、サプリメントは言葉通り「補助的」なものなので、サプリメントだけを摂ってもあまり意味がなく、足りないものだけを補足的に摂るようにすると良いです。
なかなか自分に不足している栄養素がわからない場合には管理栄養士などの専門家に相談してみてください。
そのほか、食と栄養についてはこちらでもご説明しています。
・栄養学とサステナビリティ。これからの食と健康を考える
・ファイトケミカル(フィトケミカル)とは?第七の栄養素の正体
栄養失調という言葉が過去のものになる社会になるように、一人一人ががんばってみましょう。
【ライター紹介】
宮川 隆 (みやがわ りゅう)
名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師ほか第一種放射線取扱主任者、甲種危険物取扱者、調理師など30以上の資格を保有。
現在は、国立大学法人東京工業大学キャンパスマネジメント本部
放射線安全部門 特任准教授
(国立大学法人東京大学医学部附属病院 届出研究員)
(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 客員研究員)
(公益社団法人日本アイソトープ協会 講師)