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新年を祝うガレット・デ・ロワ。添えられる王冠の意味


ガレット・デ・ロワ(galette des rois)は、伝統的なフランス菓子です。日本にも多くのファンを持つお菓子であり、新しい年が明けると取り扱うお店もあります。ガレット・デ・ロワには、紙製の王冠が添えられるのが一般的。なぜ王冠が添えられるのか、ガレット・デ・ロワの食べ方とともに迫ります。

フランスの伝統菓子、ガレット・デ・ロワとは

ガレット・デ・ロワは、クレームダマンド(アーモンドクリーム)をパイ生地で包んで焼き上げた丸くて平らなお菓子です。パイ生地の表面には、渦や月桂樹の葉、麦穂などの模様が付けられています。※1※2※3

中に入っているクレームダマンドは、「クレーム(クリーム)」の名前が付いていますが、いわゆる生クリームやカスタードクリームのようなものではなく、アーモンドパウダー、卵、砂糖、バターを混ぜ合わせたもので、焼き上げるとしっとりとした生地になります。クレームダマンドはパイやタルトにも使われていますので、食べたことがある方も多いのではないでしょうか。ガレット・デ・ロワは、パイ生地とクレームダマンドで作るシンプルなお菓子のため、職人の技術や個性が出るといわれています。※1※3

ガレット・デ・ロワは、1月6日に催されるキリスト教の行事「公現祭(エピファニー:Epiphanie)」を祝って食べられるお菓子です。1月6日は12月25日に降誕したイエス・キリストと、東方から訪れた3賢人(博士)が出会った日でした。すなわち、イエス・キリストが公に現れた日が「公現祭」に当たり、ガレット・デ・ロワはこの日を祝うために作られているのです。フランスではガレット・デ・ロワを公現祭の当日だけでなく、1月で家族や友人たちと集まる日にも食べられています。※1※2※3

ガレット・デ・ロワに欠かせない王冠

ガレット・デ・ロワを購入すると、紙製の王冠が添えられてきます。これはなぜなのでしょうか。ガレット・デ・ロワを日本語に訳すと、「galette」は丸く薄く焼いた料理、「roi」は王様という意味なので「王様の丸いお菓子」です。公現祭に関わる東方の3賢人は、のちに「王様」と解釈されており、このことからガレット・デ・ロワは「3賢人のお菓子」という意味も持っているのです。※1※2※3※4

また、紙製の王冠が添えられているのは、1年の幸運を占う意味もあるためです。ガレット・デ・ロワには、「フェーブ(Fève)」と呼ばれる陶器が生地の中に1つ隠されています。フェーブは隠れているため、どこに入っているのかわかりません。※1※2※3

人数分に切り分けたガレット・デ・ロワを家族や友人たちに配り、食べ進めていくと、フェーブの入ったピースに当たった人が判明します。フェーブが当たった人は、その日だけ王様や王妃様になれるとされているので、紙製の王冠をかぶるのです。そして、1年にわたって幸運が降り注ぐとされています。※1※2※3

以上のような習慣が始まった由来は、古代ローマで行われていた農耕のお祭りが一つの説として伝わっています。お祭りでくじを引いて当たった人は、身分の低い人でも身分の高い人に給仕してもらえるという習慣がありました。この習慣が、の「1日限りの王様」につながっていったと考えられています。さらに時が過ぎた頃、ある修道院で後継者を選ぶ際、切り分けたパンにコインの入っている人を選んだともされ、ガレット・デ・ロワにフェーブを入れる習慣は、さまざまな行事と融合して行われるようになったといわれています。※1※2

フェーブはもともと陶器ではなかった?


一般的なフェーブは小さな陶器製の人形です。公現祭にまつわる3賢人や、イエス・キリストがおくるみにくるまった姿の他にも、動物やお菓子を模したデザインなどがあります。たくさんの種類があり、その年のガレット・デ・ロワにどんなフェーブが入っているのかを楽しみにしている人もいます。中には、フェーブを集めるコレクターもいます。※1※2

フェーブは日本語に訳すと「そら豆」です。もともとは陶器製ではなく、そら豆が使われていました。そら豆は胎児の形をしていると考えられており、古くから命のシンボルとして大切に扱われていたためです。その後、19世紀になると陶磁器が流行し、そら豆から陶器製のフェーブに変わったといわれています。※1※2

ガレット・デ・ロワの切り分け方

ガレット・デ・ロワの生地に隠されたフェーブは、どの部分に入っているかわかりません。そのため、切り分ける際にナイフにフェーブが触れたり、断面からフェーブが見えたりすることもあります。そうすると誰にフェーブが当たるのか食べる前に分かってしまうため、切り分け方や配り方にも伝統的な習慣が伝わっています。※1※2

まず、ガレット・デ・ロワをふきんで覆い、見えない場所で切り分けます。また、切り分けた順番を変えてお皿に盛り付け、どのピースが誰に渡るのか分かりにくくします。※1※2

一般家庭では一番の年少者である子どもがテーブルの下に隠れ、誰にどのお皿を渡すのかを指示することで、ランダムにガレット・デ・ロワを配る習慣があります。※1※2

地域で異なる公現祭のお菓子


公現祭に食べられているお菓子は、フランスの地域でも異なります。パイで作られたガレット・デ・ロワを食べる習慣は、14世紀頃から始まったといわれています。ガレット・デ・ロワは、もともとパイのお菓子ではなくパンでした。現在でもフランス南部では、リング状にしたブリオッシュ生地(バター・卵・砂糖が多めに使われている生地)のパンにドライフルーツなどが飾られている「ガトー・デ・ロワ(gâteau des rois)」一般的。ですが、紙製の王冠が添えられ、中にはフェーブを隠し、当たった人が王様や王妃様になれるという習慣は同じです。※4

フランスでは年末から1月にかけて、パティスリーなどにガレット・デ・ロワが並びます。表面に描かれた美しい模様、生地の中に隠されたフェーブの形など、お楽しみ感のあるお菓子です。日本にもガレット・デ・ロワを販売するお店がありますので、フランスの文化を知るきっかけとして立ち寄るのも良いのではないでしょうか。

<参考>
※1:お菓子の由来物語 猫井登著

※2:フランス菓子図鑑 お菓子の名前と由来 大森由紀子著

※3:ガレット・デ・ロワとは
https://www.galettedesrois.org/galette/

※4:公現祭
https://jp.ambafrance.org/article7175