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平安時代から伝わる和菓子。お正月に食べる「花びら餅」とは

植物や風景などをモチーフにして季節を表すことも多い和菓子。お正月には干支や縁起物をかたどった和菓子が店頭に並びます。そんな和菓子の中でもお正月に食べられるものの一つとして知られているのが「花びら餅」です。この和菓子は「花びら餅」という名でありながら、花の形ではなくシンプルな形をしています。なぜ「花びら餅」と呼ばれているのでしょうか。平安時代に行われていた宮中儀式にルーツがあるといわれる、「花びら餅」の由来に迫ります。

お正月の縁起菓子「花びら餅」とは

花びら餅は、年末から年明け上旬くらいまでに和菓子店に並ぶ、期間限定の和菓子です。半月の形をした花びら餅は、シンプルな見た目とは裏腹に、複数の食材で構成されています。

使われている餅は2種類。丸く平らに伸ばした白い餅、または求肥の中央に、紅色の菱餅が重ねてあります。菱餅の上には白餡に白味噌を加えた味噌餡、さらには甘露煮にした細切りごぼうをのせ、半分に折りたたんで作られています。※1※2※3※4

なぜ、2枚の餅を重ねているのでしょうか。花びら餅のルーツをたどっていくと、宮中でお正月に食べられている料理にたどりつきます。実を言うと、もともと花びら餅は甘い和菓子ではありませんでした。宮中に関わる人々しか口にしなかった料理を、川端道喜(かわばたどうき)という宮中に餅を納めていた京都の老舗和菓子店が、和菓子の花びら餅に作り変えたといわれています。※4

宮中でお正月に食べられている伝統料理


宮中では、お正月の三が日に「菱葩(ひしはなびら)」を中心とした料理を食べます。この菱葩が花びら餅のルーツとなった料理です。菱葩は、平たく伸ばした白い丸餅に紅色の菱餅を重ね、白味噌とごぼうの甘露煮をのせ、折りたたんで提供されます。大きさは横幅が約15cmで、餅に甘味は付けられていません。※1※5

餅と味噌の組み合わせは雑煮に似ていることから、菱葩は「宮中雑煮」や「包み雑煮」とも呼ばれています。花びら餅はこの菱葩を小ぶりにし、餅に甘味を付け、味噌を味噌餡に変化させたものです。※1※4※5

いにしえの時代から餅は神様へのお供え物や、行事に用いられてきました。白い丸餅は、縁起の良い梅の花びらを模しており、「葩餅(はなびらもち)」と呼ばれていたといわれています。菱葩は、葩餅と菱餅と重ねることから名付けられたと考えられており、花びら餅の名前も菱葩に由来します。※3※4

では、なぜ宮中で菱葩を食べるようになったのでしょうか。菱葩を食べ始めたといわれる時代がいつ頃なのかについては諸説ありますが、源氏物語に菱葩の記載があることから平安時代にはすでに食べられていたといわれています。※3

長寿を願った平安時代の儀式

平安時代の宮中では、お正月に「歯固め」と呼ばれる、固いものを食べて長寿を願う儀式が行われていました。固い食材として並ぶのは、鏡餅、しし肉、鹿肉、大根、鮎の塩漬けなどです。※1※2

歯と長寿が関わる理由は、歯の数を見ると年齢が分かり、古くから歯は「齢(よわい)=年齢」に通ずると考えられていたからです。新年に固い物を食べ、歯を丈夫にして健康になることが、長寿につながっていくと考えられていたのではないでしょうか。※1※2

時期ははっきりとわかっていませんが、歯固めの儀式に用意された固い食材は、丸餅と菱餅を重ねたものにのせて食べていたといわれています。その後、歯固めの儀式は簡略化し、食材も丸形と菱形を重ねた餅で、塩漬けの鮎と味噌を包んだ宮中雑煮に変化します。※1※4

そして、これが江戸時代になると、ごぼうを塩漬けの鮎に見立てた菱葩に変化していったのです。今でも皇室ではお正月の三が日に菱葩を食べており、古くから続く伝統が受け継がれています。※1※4※5

茶道の裏千家の行事から全国に広まる


明治時代になると天皇の住まいが東京に移り、首都も京都から東京に変わります。宮中に餅を納めていた川端道喜は東京には移らず、京都に残ることを決めたため宮中の仕事を失いました。その後、川端道喜は茶道の茶席で使われるお菓子を作るようになり、和菓子の花びら餅が生まれたのも、この明治時代です。※4

この頃、茶道の裏千家の茶人「玄々斎宗匠(げんげんさいそうしょう)」が宮中に呼ばれて菱葩を食べたことをきっかけに、菱葩を1月に行われる茶席の「初釜」で使わせてもらえないかと宮中に申し入れます。その後、宮中から許可を得て、京都で茶席のお菓子を作っていた川端道喜に製作を依頼したのです。※1※2※4

依頼を受けた川端道喜は試行錯誤の末、菱葩を茶席に合うサイズに変え、餅に甘味を付けた花びら餅に仕上げました。明治以降にも花びら餅は初釜(新年最初の茶会)に欠かせないお菓子となり、茶席をたしなむ方たちの間で楽しまれるようになります。※1※4

茶席のお菓子となったことで花びら餅は全国に広まり、お正月の縁起菓子として一般の庶民にも親しまれるようになったといわれています。同じように見えても、和菓子店によって花びら餅の味わいはさまざまです。菱餅を重ねていない味噌餡とごぼうのみのもの、ごぼうの代わりにニンジンを使う花びら餅なども見られます。毎年、購入するお店を変え、花びら餅の味わいの違いを楽しんでみるのも面白いかもしれません。※1※4

また、花びら餅はおせちの一品として扱われるほか、栗きんとん、甘く煮た牛蒡や蓮根、鯛の形の落雁など甘い食べ物を詰め込んだスイーツおせちも注目されつつあります。
おせちは神様に一年の豊作を感謝するためのお供え物としてできた背景もあり、それぞれの料理は良き将来を願う意味などがあることをご存じでしょうか。おせち料理の由来おせち料理の定番についてはこちらをご参照ください。

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花びら餅は、長寿を願って食べられていた菱葩を変化させて作られ、そこに白い丸餅で梅の花びらを表現するなど、縁起も大切にした、お正月を彩る和菓子です。平安時代から受け継がれる伝統に思いをはせながら、味わってみてはいかがでしょうか。

 

<参考>
※1:和菓子の世界 中山圭子著

※2:美しい和菓子の図鑑 青木直己監修

※3:知っておきたい和菓子のはなし 小西千鶴

※4:和菓子の京都 川端道喜著

※5:宮中 季節のお料理 宮内庁監修