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栗きんとんは岐阜の定番和菓子。おせちとは別のもの


秋になると、旬の栗を使った洋菓子や和菓子が登場します。岐阜の東濃地方では栗きんとんが秋の風物詩です。栗きんとんと聞くと、お正月に食べるおせちの1品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、岐阜で栗きんとんと言えば、おせちを指すだけのものではありません。今回は、岐阜で秋の定番和菓子となっている栗きんとんをご紹介します。

和菓子の栗きんとんには栗がたっぷり

栗きんとんは、栗に砂糖や塩を加えたシンプルな和菓子。加熱した栗の殻を剥いて中身を取り出し、砂糖を混ぜ合わせて鍋でじっくりと練り上げます。練り上げた栗を布巾で茶巾包みにし、栗の形に整えれば出来上がりです。※1※2

栗きんとん1個の重さは約30g。一般的な栗の食べられる部分は1個当たりで約20gのため、栗きんとん1個について約1.5個分の栗が使われている計算となります。※1

栗きんとんはその昔、山に自生している山栗(シバ栗)で作られていました。山栗は、現在栽培されている栗の原種に当たる小ぶりな栗です。1個の栗きんとんには約10個の山栗が使われていたといわれています。※3※4

栗きんとんで有名な岐阜の中津川市や恵那市のある東濃地方では、栗の収穫が始まる9月が栗きんとんの販売時期。販売の開始で秋の訪れを感じるほどの名物になっています。※1

「きんとん」とはどのような食べ物?


きんとんという名称にはいくつかの意味があります。一つ目は料理として、二つ目は和菓子としての意味です。

料理としての「きんとん」は、さつまいもなどで作った餡に、甘く煮た栗やいんげん豆などを混ぜたもの。さつまいもの餡に栗の甘露煮を混ぜた、おせちの栗きんとんが代表的です。おせちの栗きんとんには、漢字の「栗金団」がよく使われます。「金団」には財宝という意味があり、これから始まる1年を豊かに過ごすための縁起を担いた食べ物でもあるのです。※5※6
なお、おせち料理の縁起についてはこちらでご紹介しています。

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和菓子としての「きんとん」は、丸めた餡や求肥(ぎゅうひ=粉上のもち米もしくは白玉粉に砂糖や水あめなどを加えて練り上げた菓子)を芯にし、裏ごしした餡をそぼろ状にしたもので包んだものを指します。そぼろ状の餡を季節に合わせて着色し、1年中楽しまれている和菓子です。このようなきんとんが作られ始めたのは、江戸時代だといわれています。※5※7

もともと、きんとんは栗の粉に砂糖を入れて丸めたものでした。中国から伝わった唐菓子の「餛飩(こんとん)」が起源となってきんとんが生まれたとされています。きんとんを漢字で書く時に金飩(きんとん)が使われることがあるのはこのためです。現在では、ひらがなの「きんとん」や「金団」の表記が和菓子で使われることが多いようです。※5※7

一般的な和菓子のきんとんと、岐阜の栗きんとんは形が異なります。岐阜で茶巾包みにした和菓子が、栗きんとんと呼ばれるようになったのはなぜなのか気になるところです。

栗きんとんと同様の和菓子は岐阜以外の地域でも親しまれており、名古屋では「栗粉(くりこ)」の名称で取り扱っているお店もあります。名古屋で栗きんとんを購入したい場合は、名称にも注意したいものです。※8※9

岐阜の栗きんとんの発祥の地は

 

和菓子の栗きんとんはどこで生まれたのでしょうか。発祥の地として有名なのは、岐阜の中津川市です。中津川駅前には「栗きんとん発祥の地」の石碑が建てられ、石碑の横にある栗きんとんの紹介看板とともに、観光客からも親しまれています。※10※11

山に囲まれた中津川市は、岐阜県内でも有名な栗の産地。古くからごはんに栗を炊き込んだり、栗を焼いたりゆでたりして人々は親しんできました。江戸時代になると、中津川市は中山道の宿場町として栄えます。茶の湯文化も発展し、様々さまざまな茶菓子が誕生。栗を使った茶菓子も数多く作られていて、栗きんとんもこのひとつだといわれています。※2※10※11

中津川菓子組合は、9月9日に栗きんとん発祥の地の石碑の前で神事を行っています。9月9日は五節句のひとつである「重陽(ちょうよう)の節句」です。この時期は栗の収穫と重なり、栗ごはんなどを食べて収穫を祝ったことから「栗節句」とも呼ばれています。石碑の前で行われる神事では、栗の豊作に対する感謝や商売繁盛などを祈願し、神事の後には栗きんとんの無料配布も実施。会場は多くの市民でにぎわいます。※1※12※13

また、美濃地方で初めて栗きんとんを作ったということから、岐阜の八百津市にある老舗和菓子店も発祥の地のひとつとして伝わっています。三代目店主が大正時代に作り始め、現在も当時の材料と製法で作られた栗きんとんが親しまれています。※14

栗きんとんを食べ比べて味の違いを楽しむ

栗、砂糖と塩などのシンプルな材料で作られている栗きんとん。シンプルだからこそ、使われている栗の産地や品種、砂糖の種類、炊き方などで味わいに変化が生まれます。栗きんとんはさまざまなお店で作られているので、食べ比べをするのも秋ならではの楽しみ方です。

中津川市のお土産物店では、栗きんとんがバラやセットで販売されています。また、中津川市内にある14店舗の栗きんとんを紹介した、「栗きんとんマップ」が中津川市観光案内所などで配布されており、地図を見ながら和菓子店を回るのも楽しみのひとつです。※15※16

ほくほくとした栗の食感、しっとりとした舌触りなど、食べ比べするからこそ奥深い栗の風味を感じながら楽しめるのではないでしょうか。自分の好みに合う栗きんとんも見つかるかもしれません。

岐阜の栗きんとんは、栗をたっぷりと使った和菓子。おせちの栗きんとんと同じ名称ですが別のものです。秋が旬の栗を使った栗きんとんは冬まで楽しめます。お店によって味わいに違いがあるので、販売が始まる時期に食べ比べてみてはいかがでしょうか。


<参考>
※1:栗きんとん
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/38_17_gifu.html

※2:郷土料理百選パンフレット
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kyodo_ryouri/attach/pdf/panf-19.pdf

※3:岐阜県の郷土料理候補
http://www.location-research.co.jp/kyoudoryouri100/ryouri/21.html

※4:栗きんとん
https://www.kankou-ena.jp/gourmet/kurikinton.php

※5:たべもの起源事典 岡田哲編

※6:おせちってどんな料理?
https://www.maff.go.jp/j/agri_school/a_menu/oseti/01.html

※7:事典和菓子の世界 中山圭子

※8:くりことくりきんとん
https://www.suzumeodori.com/blog/?p=44

※9:「栗きんとん」?「栗粉」?毎日大変
https://www.wagashiya.com/hpgen/HPB/entries/16.html

※10:栗のまち中津川
https://nakatsugawa.town/attractive-malon-town/

※11:「栗きんとん発祥の地」紹介看板が設置されました
https://nakatsugawa.town/event/

※12:9月9日に栗節句が行われます
https://nakatsugawa-kankou.com/topics/

※13:【栗きんとん発祥の地 中津川の栗節句】9月9日は栗節句。栗きんとん発祥の地の碑で神事、栗きんとんの配布があります。
http://enasan.net/news/004377.php

※14:やおつの栗きんとん
https://kankou.yaotsu.jp/2016/11/01/kurikinton

※15:にぎわい特産館
https://nakatsugawa.town/tokusankan/

※16:中津川栗きんとんマップ2022ができました!
https://nakatsugawa.town/event/