安心して過ごしたり眠ったりできる精神状態にはホルモンが影響しており、俗に「幸せホルモン」と呼ばれています。この幸せホルモンは多幸感や充実感を感じるために必要であり、分泌が減ると不安などのネガティブな感情につながってしまいます。体内で働く幸せホルモンは数種類ありますが、その中で鎮痛作用も持つエンドルフィンについて詳しくみていきましょう。
エンドルフィンってどんなホルモン? ドーパミンとの違いとは
多幸感を得られる幸せホルモンの代表的なものに「ドーパミン」が挙げられます。エンドルフィンとドーパミンの違いは、ドーパミンは、楽しいことをしている時、目標を達成した時、褒められた時、または「誰かのために」「社会のために」など貢献に関わる活動を行う際に分泌される脳内物質で、モチベーションを高めます。ドーパミンが分泌されていない時は意欲も低下傾向にあります。※1
このような性質から、ドーパミンは「脳内報酬系」と呼ばれることがあります。
ドーパミンについてはこちらで詳しく紹介しています。
・神経伝達物質であるドーパミンの出し方と重要性とは?!
これに対しエンドルフィンは「感謝の脳内物質」と呼ばれており、ドーパミンの幸福感を10~20倍にも増強する効果があると考えられています。エンドルフィンは脳内に存在し、ストレスや快楽、感動などを覚える場面で分泌されます。エンドルフィンの特徴は鎮痛作用を持っているという点で、例えばけがをした時もエンドルフィンが分泌されれば痛みが和らぎます。
エンドルフィンの作用は様々な場面で注目されており、皮膚のかゆみや痛みなど、ストレスの原因となる症状の緩和にも応用することができると考えられています。エンドルフィンの痛みやストレスを緩和させ、多幸感をもたらす可能性には大きな期待がかかっているのです。※2
医療用麻薬とエンドルフィンの共通点
医療の現場ではエンドルフィンの鎮痛作用と同じメカニズムを持つ医療用麻薬が使用される場面があります。一般的に喉の痛みや頭痛などで使われるのは非ステロイド性消炎鎮痛薬です。しかし、手術のあとやガンに罹患した時はとてつもなく強い痛みに襲われ、このような医薬品では痛みを十分に抑えることができません。
強い痛みは我慢をするとかえって体に負担をかけてしまうため、そういった場合は日常生活に与える影響を考えて医療用麻薬を使用します。医療用麻薬は「オピオイド鎮痛薬」というもので、エンドルフィンが受容体に結合する仕組みと同じメカニズムで作用します。
エンドルフィンは脳内や脊髄内の「オピオイド受容体」というスイッチに結合し、痛みを脳に伝える神経の活動を抑制して鎮痛作用を示します。医療用麻薬もエンドルフィンと同じくオピオイド受容体に作用して痛みを和らげ、さらには多幸感を感じる神経系にも関与しているのです。※3
痛みとエンドルフィンの関係性については様々な研究においても調査され、多くの論文が書かれています。今後はこのメカニズムの活用がさらに広がり、エンドルフィンが十分に分泌される状態を生み出すことで人が痛みを感じる場面を減らし、QOLの向上にも役立つ可能性が期待できます。
エンドルフィンを増やすためには?
幸せホルモンは日々の生活の中で増やすことができます。
例えば、幸せホルモンのひとつ「セロトニン」を増やすには、セロトニンの材料となるトリプトファンとビタミンB6をしっかりと摂取するのが良いといわれています。※4
セロトニンとは簡単にいうと、不安を和らげて精神を安定させる働きを持っています。
詳しくはこちらをご参照ください。
・オキシトシン・セロトニンの分泌を増やす。食で幸せになる方法とは
・幸せホルモンの種類と増やし方! 知っていますか?
では、日々の幸福度を高めるため、エンドルフィンの分泌を増やすには、どのようなことをすれば良いのでしょうか。
エンドルフィンは神経の興奮による気持ち良さではなく、ゆったりとした気持ち良さを促します。エンドルフィンの分泌を増やすために普段の生活でできることは、少しでも楽しいと感じることをしたり、人が喜ぶようなことを行ったりすることです。例えば、好きな服をきておしゃれをする、美味しいものを食べる、仲の良い友達に手紙を書くなどです。
このようにエンドルフィンの出し方は、自分が気持ち良く感じたり、楽しいと思えることをするのが一番の近道というのがわかります。また、恋愛感情で心がときめいている時も、脳内ではエンドルフィンが作られています。
かつて、ランニングをしている時に感じる、苦しさが心地良くなる状態を指す「ランナーズハイ」は、エンドルフィンが主要因と考えられていました。しかし、最近の研究では、要因はひとつではなく、エンドルフィンよりも分子が小さく、脳に容易に到達できる「内因性カンナビノイド」がランナーズハイをもたらす高揚感に関わっているという説が有力です。※5
いずれにしてもランニングが好きだったり、楽しいと感じる人にはエンドルフィンは精神的な好影響を与えるものですので、健康のためにも続けるのは良いことといえます。
幸せホルモンは精神状態と大きく関係します。まずは規則正しい生活を心がけ、楽しいと感じられる場面を増やすことを意識していきましょう。また、エンドルフィンの分泌を促すには、ココアを使ったレシピもおすすめです。ぜひ試してみたくださいね。
・【朝食レシピ いちごのティラミス風の作り方】モーニングデザートでエネルギーチャージ 適糖おすすめレシピ
<参考>
※1 日本脳科学関連学会連合 脳の中の快楽センター
https://www.brainscience-union.jp/trivia/trivia2760
※2 青山ヒフ科クリニック ストレス撲滅の特効薬:エンドルフィン、脳内麻薬はヒフ麻薬
https://www.aoyamahihuka.com/beautycolumn/?id=1638257056-452531
※3 公益社団法人日本薬学会 健康豆知識 医療用麻薬について
https://www.pharm.or.jp/mame/20150102.shtml
※4 山梨県厚生連 「トリプトファン」を摂って、しあわせホルモン「セロトニン」を増やそう!
https://www.y-koseiren.jp/column/season/3224
※5 PRESIDENT Online
https://president.jp/articles/-/60881
ライタープロフィール
佐々木優美(管理栄養士)
病院にて給食管理や栄養指導に従事しフリーランスとして独立。webメディアでは健康・栄養系のライターとして記事を執筆しています。その他、食育教室や自治体主催の料理教室、短期大学の非常勤講師などの仕事を通じて、食の大切さを伝える活動をしています。