怒りや焦りなどの精神的にマイナスとなる感情を抑制し、心の安定や幸福感を感じられる作用を持つホルモンがいくつかあります。これらは俗に「幸せホルモン」と呼ばれており、心身の健康と密接に関わっています。もし、体内の幸せホルモンを増やすことができれば、日々の生活を健やかで幸せなものにしていけるかもしれません。
幸せホルモンの代表格「セロトニン」
幸せホルモンと呼ばれるものの中でも、よく耳にする代表的なものがセロトニンです。セロトニンは脳内に存在する神経伝達物質で、恐怖心や不安感を引き起こすノルアドレナリンの分泌を抑え、精神の状態を安定へと導いてくれます。セロトニンの分泌が少ないと、うつ症状やパニック障害の原因にもなると考えられています。
セロトニンは、アミノ酸のトリプトファンとビタミンB6、マグネシウム、亜鉛などの栄養素から作られます。光を浴びたり、運動をしたり、ゆっくり噛んで食事をしたりすることで増やすことが可能です。※2
詳しくはこちらを参照ください。
・オキシトシン・セロトニンの分泌を増やす。食で幸せになる方法とは
・セロトニンが低血糖の症状を緩和。効果的な食べ物とは?
・【5月病を乗り切るために】厚揚げの卵とじそば、セロトニンで5月病を乗り切ろう
また、セロトニンと同様の働きをするホルモンに「エンドルフィン」があります。エンドルフィンは痛みなどの苦痛を緩和する鎮痛作用や、気分の高揚や幸福感をもたらし、不安を和らげる働きを持つといわれています。※3
詳しくはこちらを参照ください。
・エンドルフィンはどうすれば増える? 多幸感を促す物質とは
・痛みと糖のあま~い関係とは?!
・適糖ライフのススメVol.14 疲れた時に甘いものが良いって本当??
同じホルモンでも喜びや快楽をもたらし、意欲を引き出すアドレナリンやドーパミンは、過剰に分泌されると欲をコントロールするのが難しくなります。食べ過ぎや買い物依存、アルコール依存は、ドーパミンの過剰分泌が引き金となっていることも。セロトニンにはアドレナリンとドーパミンを調節する働きもあります。※1
詳しくはこちらを参照ください。
・断酒と糖との関係とは?!
ドーパミンは過剰に分泌されると前述のようなデメリットもありますが、最新の知見では、パーキンソン病やうつ病などの治療法としても注目されています。詳しくはこちらをご参照ください。
・神経伝達物質であるドーパミンの出し方と重要性とは?!
スキンシップで笑顔を増やす「オキシトシン」
オキシトシンは「愛情ホルモン」と呼ばれることがあります。これは、オキシトシンが出産や授乳などの子育てに関わる場面で放出されることが多いためです。オキシトシンはストレスから脳を守ったり自律神経を整えたりと様々な効果を持っています。
これまでオキシトシンは母性的な行動から分泌されるものということで注目されてきましたが、それだけでなく男女間のスキンシップにおいてもオキシトシンの分泌が促進されることがわかっています。特にハグや手をつなぐといった、温度を感じられるコミュニケーションが有効です。セルフハグやペットをハグするといった行為でもオキシトシンの分泌は高まるそうです。
オキシトシンはコロナ禍のストレスケアとしても注目を集めました。また、食欲の抑制や脂肪分解などの抗肥満効果もあるなど、様々な効用が報告されるようになってきています。自分自身が安心したり、家族間で優しい言葉をかけたり、触れ合ったりすることで、オキシトシンの分泌が期待できます。日常の中で笑顔になれる場面を増やしていきましょう。※4
新発見の「マイオカイン」
運動をすることが健康に良いとされているのは、単に消費エネルギーが増えるからというだけではありません。近年、研究によって明らかとなったマイオカインは、筋肉から分泌されるホルモンです。これまで筋肉は分泌機能を持っていると考えられていませんでしたが、他の臓器と関わりながら代謝調節を行うことがわかってきました。
筋肉は運動に関わる機能だけではなく、生理作用のある物質を分泌する内分泌組織としての働きもあることが判明しました。マイオカインは、筋肉から分泌される100種類程度のホルモンを指す総称であり、特定のホルモンにつけられた名称ではありません。これらの中には脂肪を燃焼させるものや免疫に関わるものなどが含まれており、抗ストレスなどメンタルヘルスの向上に役立つ機能を持つマイオカインもあります。マイオカインは私たちが健やかに過ごせるよう、体の調子を整える働きをする重要な物質なのです。
マイオカインの安定した分泌を促進させるためには、大きな筋肉を鍛えることが有効とされています。また、運動強度が高いほどマイオカインの分泌量は増えます。例えば、スクワットは太ももの筋肉を鍛えることができるので、効率よくマイオカインの分泌を促すことができます。運動は週に数日でも効果があるといわれていますので、時間がある時には意識的に筋肉を動かしてみましょう。
詳しくはこちらを参照ください。
・話題のマイオカインとは? 咀嚼が生み出すホルモンの力
<参考>
※1 e-ヘルスネット セロトニン
※2 医療法人社団 平成医会 セロトニンの増加が心身に及ぼす効果
※3 e-ヘルスネット β-エンドルフィン
※4 順天堂大学 コロナ禍に。愛情ホルモン「オキシトシン」への期待
※5 福島県立医科大学 筋肉と脳の深い関係を知ろう
ライタープロフィール
佐々木優美(管理栄養士)
病院にて給食管理や栄養指導に従事しフリーランスとして独立。webメディアでは健康・栄養系のライターとして記事を執筆しています。その他、食育教室や自治体主催の料理教室、短期大学の非常勤講師などの仕事を通じて、食の大切さを伝える活動をしています。