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メイラード反応とは メリットとデメリットの二面性を知ろう


お肉やお魚、クッキーやホットケーキを焼いたときの焼き色や香ばしい匂いは、メイラード反応によるもの。メイラード反応には糖が関わっていて、おいしさにも大きく関係します。 メイラード反応とはどういうものなのでしょうか。メリットとデメリットについても解説します。

メイラード反応とはそもそもどんなもの?

料理をしている人にとっては常識ともいえる有名な反応の1つであるメイラード反応。数ある化学反応の中ではご存じの方も多いであろう有名な反応です。この反応には二面性があります。今回はこの反応について見ていきましょう。

メイラード反応とは還元糖とアミノ化合物が加熱によって化学反応を起こし、メラノイジンと呼ばれる褐色物質を生み出す反応のことで、褐変反応とも呼ばれます。この反応を研究していたフランスの科学者によって名づけられました。

例えば肉を焼くと茶色に変わりますが、これこそがまさにメイラード反応です。焼いた肉は生肉とは違ってとても香ばしい美味しさがありますが、こういった香気成分が生成される重要な反応でもあります。

高温下で急速に進む反応ですが、実は常温でもゆっくりと長時間かけ進行する反応です。また、中性~塩基性の条件下で促進されることもわかっています。しかしながら、こんな有名な反応ではあるものの、詳細な全体の化学的変化を起こす段階を追った一続きの素反応の全体については実はまだ解明されていないものになりますので、未だに人類にとっては神秘的ともいえます。

メイラード反応によって生成されるメラノイジンの機能とは?


メラノイジンは強力な抗酸化物質で、抗酸化剤として有名なビタミンEよりも強いとも考えられています。つまり、食品の保存性をと高めるとともに、食品が強力な抗酸化能力を有するようになるということです。例えば、みそはメイラード反応を利用した発酵食品であり、抗酸化作用が強い食品ですが、みそに含まれているメラノイジンの寄与が大きいと考えられています。さらに抗酸化作用は抗がん作用につながるものですが、この抗がん作用に関しては、みそを熟成させればさせるほどその効果が高まったという報告もあります。

メイラード反応と似て非なる反応とは カラメル化とどう違う?


メイラード反応が起こる事例としては、前述した肉を焼く、みその熟成の他には、玉ねぎを炒める、しょうゆの熟成、コーヒー豆の焙煎などになります。

砂糖を加熱すると褐色になったのちに黒く着色されますが、この反応は糖が加熱されることで起こるカラメル反応というメイラード反応とは別の反応です。

また、焦げて黒くなってくる場合の反応は炭化というもので、メイラード反応の後にも起こります。

メイラード反応の中でのデメリット


メイラード反応が食品で起こるとメリットがあることはわかりましたが、実は一部デメリットも存在します。メイラード反応の中で、アミノ酸のアスパラギンとブドウ糖が反応した場合に生じるアクリルアミドに関しては、神経毒性や発がん性を持つことが指摘されています。

具体的にはポテトチップス、フライドポテト、ビスケットなど、炭水化物が多く含有されるものでメイラード反応が起こる場合に多く生成されることが指摘されています。メイラード反応といっても良くないものが生じる場合もあるので、二面性のある反応だと理解しておくことが大事です。

医療分野でもメイラード反応が大事になる場面がある

現代病の1つといわれている糖尿病の患者さんで褐色斑が見られることがありますが、この原因となる色素であるAGEs(advanced glycation end-products)はメラノイジンの前駆物質と考えられています。

糖尿病では、インスリン耐性が形成された結果、高濃度のグルコースが生体内に存在することになり、このグルコースの持っている反応性が高いアルデヒド基部分が生体内のタンパク質とメイラード反応して有害な作用を生じ、結果として糖尿病合併症につながってしまいます。

また、AGEsに関しては、糖尿病だけでなく、認知症や白内障など他の疾患にも関与していると指摘されているため、生体内のメイラード反応は気を付けなければいけないことといえます。

別の観点からの事例となりますが、病院において高カロリー輸液を調製する際に、ブドウ糖液とアミノ酸液を同じ容器内で混合するという作業がありますが、この混合液を放置しておくとメイラード反応によって褐色に変化してしまうというため、調製する担当者はメイラード反応の知識を持っている必要があります。まとめると、医療においては、メイラード反応はどちらかというとデメリットがある反応といえるかもしれません。

生体内のメイラード反応を防ぐことで健康へとつながる?

最近では、色々な大学の研究チームが生体内のメイラード反応を阻害するような物質によって、さまざま疾患の予防へとつながる医薬品を作り出そうという動きがあります。この動きに製薬企業やベンチャー企業なども参戦し盛り上がりを見せつつあります。

前述したように、生体内のメイラード反応は様々な疾患形成につながることがわかっているので、このメイラード反応を阻害することができれば、その先の疾患形成を抑えることができるという発想です。

まさにメイラード反応は良いと悪いの二面性を持つ反応であることが理解できますね。ぜひ覚えておいて、メイラード反応をうまく使って健康な生活への一助としてください。

【ライター紹介】

宮川 隆 (みやがわ りゅう)

名古屋市立大学薬学部卒業、南カリフォルニア大学(USC)国際薬学臨床研修修了、東京大学大学院理学系研究科修了
薬剤師ほか第一種放射線取扱主任者、甲種危険物取扱者、調理師など30以上の資格を保有。
現在は、国立大学法人東京工業大学キャンパスマネジメント本部
放射線安全部門 特任准教授
(国立大学法人東京大学医学部附属病院 届出研究員)
(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 客員研究員)
(公益社団法人日本アイソトープ協会 講師)