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紫式部も食べていた? 花びら餅など雅な和菓子と日本三大菓子処の関係


和菓子のルーツは古く、歴史とともに発展してきました。大河ドラマの主人公である紫式部作の源氏物語にも和菓子が登場します。使われる材料や製法が時代に合わせて変化し、地域独自の和菓子も生まれるなど、現在では数多くの種類が見られます。今回は雅な和菓子が作られるようになった背景を、日本三大菓子処とともに掘り下げてみました。


紫式部の時代の菓子とは

平安時代頃の書物に「菓子」という言葉が登場しますが、これは現在のような人の手が加わった菓子ではなく、主に果物や栗などを指していたといわれています。菓子は食事と別の間食として食べられていたようです。※1※2

一方、米や小麦、小豆などを原材料にして調理した加工菓子もありました。そのひとつが遣唐使によって日本に伝えられたといわれる「唐菓子(からくだもの)」です。唐果物は、米粉や小麦粉に甘味料を加えてこね、形を整えて油で揚げたもので、儀礼や宴席に用いられたと考えられています。※1※2

当時の加工菓子には砂糖ではなく、「あまづら」という植物から採取した甘味料が使われていました。また、米を発芽させた「米もやし」を使い、穀物のでんぷんを糖に変えた飴も甘味料として用いられたといわれています。※1※2

日本書紀にも記されている飴については、下記でご紹介しています。
紀元前から日本には飴があった! 初代天皇が愛した飴とは!?

日本や世界で歴史のある飴については、下記でご紹介しています。
飴の歴史。大分の宇佐神宮名物、宇佐飴の由来って?
真っ黒で世界一まずい? 北欧で愛される飴「サルミアッキ」とは


源氏物語や枕草子などの平安文学に登場する和菓子


大河ドラマの舞台となった平安時代には、日本独自の国風文化が生まれました。現在も読み継がれている「源氏物語」や「枕草子」などで当時の様子を想像するのも楽しいものです。平安時代の文学からは当時の食べ物も知ることができます。この頃に食べられていた唐果物以外の加工菓子にはどのようなものがあるのでしょうか。

紫式部作の源氏物語には、「椿餅(つばいもちゐ)」という菓子が登場します。椿餅は今の時代にも受け継がれている冬から春にかけての和菓子です。餡を道明寺粉の生地や羽二重餅で包み、艶やかな椿の葉で挟んでいます。平安時代に食べられていた椿餅は現代のものとは異なり、あまづらで甘味を付けた餅を椿の葉で挟んだものだと考えられています。※2

また、清少納言作の枕草子には「かき氷」が登場します。それによると、当時のかき氷は氷室に保存していた氷を削り、あまづらをかけたものだったようです。現在もアイスクリームやかき氷を食べて涼を求めるように、平安時代も暑い時期には氷を用いていたことが分かります。※3

平安時代に食べられていた椿餅やかき氷からは、現代に受け継がれている歴史の深さも感じられます。また、平安時代の儀式で用いられていた食べ物をルーツにした和菓子は他にもあります。


平安時代の儀式がルーツの花びら餅

お正月には鏡餅を飾り、ひな祭りにひし餅やひなあられを用意するように、日本には古くから行事に合わせた菓子や食べ物がありました。お正月の和菓子として知られる「花びら餅」のルーツは、平安時代の「歯固め」という儀式で用いられていた食べ物です。

お正月に行われる歯固めは長寿を願う儀式で、イノシシや鹿の肉、餅、鮎の塩漬けなどの固いものが使われました。儀式で用意される食べ物は、時代とともに変化していき、丸形と菱形の餅を重ね、押し鮎に見立てたごぼうを挟んだ「菱葩(ひしはなびら)」が用いられるようになります。花びら餅は菱葩を元に茶席の菓子として生まれました。花びら餅は京都を中心に食べられていましたが、現在は全国でよく知られた和菓子となっています。※4

詳しくは、下記でご紹介しています。
平安時代から伝わる和菓子。お正月に食べる「花びら餅」とは


日本三大菓子処と雅な和菓子の関係


時代の移り変わりとともに、加工菓子に砂糖が広く使われるようになったり、海外から菓子の製法が伝わったりして、日本の和菓子は進化してきます。今の時代に食べられている和菓子の多くは、江戸時代に生まれました。これには茶の湯の発展が深く関わっているといわれています。※1

戦国時代が終わって江戸時代になると、安定的に砂糖が入手できるようになり、和菓子を作る店も増えていきました。日本三大菓子処として知られる京都・金沢・松江は茶の湯文化が盛んな地域で、職人たちが技を競うように茶席で用いられる和菓子を作ったといわれています。伝統文化が受け継がれている京都と、政治の中心地である江戸では創意工夫された雅な和菓子が生まれ、地域独自の和菓子も作られています。※1

和菓子に使われる材料や製法は、時代とともに変化していきます。一方では平安時代から受け継がれている和菓子もあり、平安文学から紫式部が見た加工菓子もうかがい知ることができます。大河ドラマに当時食べられていた加工菓子が登場するかもしれません。また、日本三大菓子処と呼ばれる地域の歴史を知ると、茶の湯と和菓子の深い関わりが見えてきます。


<参考>
※1 事典 和菓子の世界 中山圭子著
※2 和菓子の歴史
https://www.wagashi.or.jp/monogatari/shiru/rekishi/
※3 枕草子とお菓子
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/17860
※4 和菓子の京都 川端道喜著