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あなたは有平糖って知っていますか?


「有平糖」という飴菓子を知っていますか? ポルトガルから伝来したお菓子として、カステラや金平糖は知っていても、有平糖は名前自体も聞いたことがないという人のほうが多いかもしれません。有平糖はポルトガルから伝来し、江戸時代になってから庶民にも浸透し、やがて有平細工として技巧が凝らされるようになりました。※1

そんな有平糖とはどんなお菓子なのか、また、有平糖の歴史について解説したうえで、有平糖から派生して誕生したお菓子についても紹介していきます。
 

そもそも「有平糖」って?


有平糖は「あるへいとう」と読み、砂糖と水飴を煮詰めて作られる飴菓子です。飴が柔らかい状態のうちに空気を混ぜ、練り伸ばして作る有平糖の飴細工は、高い技術が必要と言われています。有平糖の飴細工には繊細な美しさがあり、「有平糖細工の花を本物と間違えて蝶が止まった」という逸話があるほどです。※2※3

有平糖と一般的な飴との違いを見ていくと、どちらも水飴と砂糖を使うことには変わりありません。ただし、配合が異なり、一般的な飴の主原料は水飴で、その割合は砂糖よりも多くなっています。でんぷんを糖化させて作られる水飴には砂糖の結晶化を抑える作用があり、なめらかな口当たりになる効果ももたらします。一方、有平糖は砂糖が主原料で、水飴よりも砂糖の配合割合が多いのが特徴。有平糖には砂糖の結晶化を防ぐ最低限の量だけしか水飴が含まれていません。

有平糖は原料や製法から、一般的な飴とは違う特徴があります。有平糖は水分を吸収しやすい水飴の比率が低いため、湿気に強くベタツキにくいのです。また、高温で煮詰めているため、熱にも強いのが特徴です。湿気の多い梅雨の時期や夏の暑い日でも、一般的な飴よりも有平糖の方が品質を保ちやすいと言えます。また、有平糖は砂糖の含有量が多く、薄く延ばして作られていることから、サクサクとした食感です。
 

ポルトガルから伝来した「有平糖」


有平糖は織田信長が天下をとっていた時代に、ポルトガル人宣教師から諸大名への献上品としてもたらされた南蛮菓子のひとつです。有平糖の語源となったのは、ポルトガル語で砂糖菓子という意味の「alfeloa(アルフェロア)」です。もともとはアルヘルやアルヘイル、アリヘイなどの名前で呼ばれていましたが、その後、アルヘイ糖やアリヘイ糖となって、やがて有平糖の字が用いられるようになりました。当時、砂糖は非常に高価であり、細工が施された美しい有平糖は特権階級のみが手に入れられる希少なもので、庶民の口に入ることはなかったとされています。※1※3

有平糖が庶民にも手が届くようになったのは、砂糖の生産量が増加した江戸時代です。八代将軍徳川吉宗の頃には、有平糖の菓子職人は他の商人と比較して破格の待遇を受けていました。有平糖の菓子職人は「献上菓子御受納」を拝命し、羽織り袴と帯刀を許されました。さらに江戸城へ登城する際には、一般的な商人が使う通用門ではなく、表玄関の通行を特別に許可されていたのです。こうして、幕府からの厚遇を受けるようになり、有平糖の細工はさらに技巧が凝らされたものへと進化していきました。※3

江戸時代末期、十一代将軍徳川家斉の文化・文政の時代になると、有平糖の細工の技術は季節の花などの植物、蝶などを象った有平細工として最盛期を迎え、茶道のお菓子としても用いられています。江戸時代には既に、棒状や板状に伸ばす、型に流し込んで固める、空気を入れて膨らませるといった洋菓子にもある技法が、有平細工に取り入れられていたとされています。※3
 

有平糖がその呼び名のもとに


お菓子ではありませんが、実は有平糖から派生してあるものに名前が付けられています。明治時代に入って、散髪脱刀令が出されると、男性はそれまでのちょんまげ頭から自由な髪形にできるようになり、男性用の理髪店ができました。それらの店は西洋理髪店や西洋髪結所と呼ばれていましたが、女性用の髪結所との区別がしにくいという問題が起こったのです。

そこで、男性用の理髪店と分かりやすくするため、東京の日本橋の理髪店が赤と白、青の3色のグルグル棒の付いた看板を出すようにすると、ほかの理髪店にも広まっていきました。それを見た人々が、棒の形状が飴菓子の有平糖に似ていると言ったことから、「有平棒」と呼ばれるようになったのです。※4

ただし、現在は有平棒ではなく、「サインポール」と呼ばれることが多くなっています。街で見かけたら、有平糖に似ているか確かめてみてはいかがでしょうか。

有平糖はポルトガルから伝来した南蛮菓子ですが、日本で有平細工として独自の進化を遂げました。今では、有平糖は茶道のお菓子として親しまれていることもあり、和菓子のひとつとして位置付けられていると言えます。あまり目にすることのない有平糖ですが、もし機会があれば、歴史に思いを馳せながら、まずはたっぷりと目で楽しみ、それから口にしてみたいですね。

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参照元URL
※1 https://wagashishikaku.net/ninki/金平糖と並ぶ南蛮菓子・有平糖の歴史/https://theryugaku.jp/2031/
金平糖と並ぶ南蛮菓子・有平糖の歴史
※2 https://kotobank.jp/word/有平糖-428660
有平糖
※3 https://i-k-i.jp/16122
有平糖とは?|飴との違いや有平糖の老舗店も紹介
※4 https://kotobank.jp/word/%E6%9C%89%E5%B9%B3%E6%A3%92-428661
有平棒の由来